「夏草の中に」
--エフェソス--

地中海文明の中では最重要遺跡に数えられるエフェス遺跡群の静かな佇まい。

手前の石柱を通して、夏草の中に置かれた古い石像たちを見ていると、遥か遠い古の時代に思いが馳せるのを感じる。

これは紀元前一世紀に建てられた、メミウスの碑と呼ばれる三体の像である。

ローマの悪政に対する民衆の抵抗運動「ポントスの乱」を指揮し、エフェスを守ったローマの独裁官、スラと息子のガイウス、そして孫のメミウスと言う三代にわたってエフェスを統治した偉大な先達たちの像なのだ。

三体とも余りに古いために、顔を削られたり、胴の一部が欠けていたり、まともな像をなしていないものだったりと、様々である。

しかし雨曝しの中に立つこれらの像が、私には却って作り物でない現実感を持って迫ってくるようで、感慨を新たにしたものである。