フェスティバル狂言
今日は午後から大阪のフェスティバルホールに「フェスティバル狂言」を見に行ってきた。

私は、日曜日とかのんびりしたい方なので日曜日の午後から舞台とか見に行くことは少ないのだが、今回のフェスティバル狂言は信じられないような顔ぶれなのでどうしても見たかったのである。

何が凄いかと言うと「茂山千作」さんと「野村萬」さんと言う二人の人間国宝を筆頭に、「茂山千五郎家」「善竹忠一郎家」「野村万蔵家」「野村又三郎家」という狂言界でも屈指の名門四家という滅多に見られない共演で夢の顔合わせが実現するのである。

始めは、各狂言家から若手が出演してのトークである。


○若手出演者によるスペシャルトーク

野村小三郎・茂山正邦・茂山茂・茂山宗彦・茂山逸平・茂山童司・善竹隆司・善竹隆平・善竹忠亮

私は茂山家のファンで公演も良く見に行くので茂山家の人たちのトークは良く見ているのだが、今回は女性の司会者のような方が進行しての立ったままのトークで落ち着かない。

茂山家の人達はトークも慣れているのだが、他の家の人達は何となくぎこちなくて少し中途半端な感じだった。


続いて、狂言の舞台になっていく。


○大蔵流狂言「福の神」


参詣人甲:善竹忠一郎

参詣人乙:善竹忠重

福の神:茂山千作

後見:松本薫 、善竹隆司

地謡:茂山あきら、丸石やすし、茂山逸平、茂山童司


二人の信心深い男(参詣人甲・乙)が、毎年恒例の福の神への参詣にやってくる。

参拝のあとで年越しの豆をまいていると、福の神があらわれ、参詣人たちに酒を所望するので酒を供えることになる。

すると福の神は信心深い二人に、「幸せになる秘訣は、勤勉でやさしく、来客を喜び夫婦仲を円満にし、なお福の神に酒を供えることだ」と語り、大笑いして立ち去っていった。


京都の茂山家と神戸の善竹忠一郎家の共演で、善竹忠一郎家の「善竹忠一郎」・「善竹忠重」兄弟が参詣人になり、茂山家の人間国宝、「茂山千作」さんが福の神を演じるおめでたい舞台である。

茂山千作さんは人間国宝に続いて、昨秋には狂言界で初の文化勲章を受章し、ますますその至芸に磨きの掛かっている感じだ。

そういう茂山千作さんの「福の神」は、まさにはまり役と言え、また、通常では「福の神」は面を着けて上演されるが、今回は特別に千作さんは直面(ひためん・面を着けずに演じること)で上演されたのも楽しく貴重であった。

千作さんが演じる福の神は、おおらかで福々しくて、観ているものを幸せにするような感じで縁起の良い狂言である。



○和泉流狂言「舟渡聟」


船頭/舅:野村萬

聟:野村万蔵

女:野村小三郎

後見:小笠原匡


聟入りをしようと出かけた聟は、途中の川で渡し舟に乗る。

しかし、渡し舟の船頭は、婿が持っている舅へ届けるための大切な祝儀の酒樽に目をつけ、呑ませないと船を止めると言い出し、結局は渡し舟の船頭に無理矢理強請られて全部のお酒を呑まれてしまう。

断り切れずお酒を振る舞ってしまった聟は、空の酒樽を手に舅の家に向かうしかない。

ようやく到着した舅宅で対面したのは、なんと先程の船頭であった。

舅は髭を剃って別人になりすましたものの聟に見やぶられ、面目を失うことになってしまう。

それでも婿は舅を責めずに、最後は和解して名残りを惜しみながら終わる。


中世の聟入りの習慣を題材に取り上げた曲で、大蔵流では船頭と舅は別人であるが、和泉流では同一人物の設定となっていて、今回は東京の「野村万蔵家」と名古屋の「野村又三郎家」の共演も楽しみである。

やはり人間国宝の「野村萬」さんと、長男で現当主の「野村万蔵」さんの息のあったやりとりはさすがである。

また、普段は同じ舞台に立つことのない名古屋の「野村又三郎家」の野村小三郎さんとの競演も楽しかった。



○狂言一調「小原木」

謡:茂山千之丞

小鼓:清水晧祐


狂言の中には、中世当時の流行歌であった「小歌」が多く登場するが、今回の「小原木」もそのひとつで、狂言「寝音曲」などの中で謡われたりしている。

今から21年前に、歌詞のみが残っていた後半部分を茂山千之丞さんが復曲し、ひとつの「小原木」として完成させた作品だそうだ。

狂言の中では謡だけで登場するが、この公演では小鼓をつけた「一調」の形式で上演されて、茂山千之丞さんの艶やかでのびのある声と、柔らかな小鼓の音色の競演が素晴らしかった。



○大蔵流狂言「菓争」(直面バージョン/演出:茂山千之丞)

橘:茂山七五三

橙:茂山正邦

九年母:茂山茂

柚:善竹隆司

蜜柑:善竹隆平

金柑:茂山あきら

栗:茂山千五郎

柿:茂山宗彦

梨:茂山逸平

梅:善竹忠亮

石榴:茂山童司

棗:網谷正美


笛:杉信太郎

小鼓:清水晧祐

大鼓:上野義雄

太鼓:前川光範

後見:松本薫、井口竜也、山下守之

地謡:茂山千之丞、丸石やすし、島田洋海、増田浩紀


果実の「橘」の精が一族と共に花見の酒宴をしているところへ、この山に住む栗の精が断わりもなしに山へ入ったと怒ってやってきて揉め事となる。

揉め事がそれぞれの一族をあげての争いとなっていくが、やがて激しい山嵐が吹き争いどころではなくなり、それぞれの領地に帰って行く。



能の替間から、ひとつの狂言として独立した作品で今回は茂山千之丞さんの演出となり、また普通は面を付けて行われる曲であるが、今回は面を着けない直面で演じられるのも新鮮である。

大掛かりな舞台で出演者も多いために上演機会が少なくて私も初めて見る曲であったが、今回はさらに、「茂山家」と「善竹忠一郎家」で、12名の役者に加えて、囃子方、地謡など総勢20名が舞台に登場する豪華な上演となった。


と、ここまでは良かったのだが、実は金曜日くらいから少し体調が崩していて、この「果争」の狂言の途中で、体調がすごく悪くなり、どうにも我慢できなくなり、トイレに行っても収まらないので、後ろ髪を引かれる思いで帰宅する事にした。

楽しみにしていた狂言の一番見たかった曲の途中でリタイアするなんて・・・ほんとうに今年は最後までついてないね。

あ~ぁ、悔しいな。