2001年07月の記事


あとがき・5
 さて、あとがき第5回です。
 長くご愛読いただきました「蜘蛛の旋律」も、本日で最後となりました。
 最後に、ぷもに和尚さん、おとわさんの感想を掲載させていただいて、終わりにしたいと思います。


 【ハンドルネーム・ぷもに和尚さん】 ― 一部抜粋 ―

  やっと、「蜘蛛の旋律」終わりましたね。
  よくあれほどの長編を完結させられたと、黒澤さんの体力・アイデア、そしてパトスにただただ感心するばかりです。
  しかも毎日連載という、作者にとってはかなり厳しい試練の中での完結。
  僕にはとても無理なように思われました。

  ・・・ところで、この「蜘蛛の旋律」のことなんですが、、、
  物語の最初の方が、僕にとっては少し分かりづらい部分がありました。
  もう今となっては、どこ、というような具体的な指摘はできないのですが、なんか理解しづらかった印象を受けたのを覚えています。
  それはもしかしたら、僕の理解力が足りなかったのかもしれませんが、なんか物語の筋道があやふやといおうか、なんといおうか、、、、
  (やっぱり自身でもおっしゃるように、行き当たりばったりの性なのでしょうか??)
  (すいません)m(__)m
  でも、本当にエピローグの部分ではだいぶ物語のストーリーが頭の中でうまく繋ぎ合ってくれて、この物語の素晴らしさや面白さを改めて味わうことが出来ました。
  ちょっと理解するのに遅すぎたのが、残念なんですが、その分、しっかりと物語の展開は頭の中にインプットされたハズです。
  特に、いいなぁ〜と素直に感心してしまったのは、色々な小説に登場する人物達や作者自身まで、一つの小説に引き込んでくるという、この夢の共演のような、「蜘蛛の旋律」にはふさわしい舞台が、土台があったことではないでしょうか?
  おそらく、作者にとっては、一つの小説に他の小説から引っ張ってきた、登場人物を登場させるというのは、夢のような仕事だと思いました。
  (それは僕だけでしょうか?)
  それに、黒澤さんの好きらしい人死にも多くでてきたことだし・・・(^^;)ゞ
  とにかく、なんか最後まで読み終わってから、あとからじわぁ〜っと胸に響いてくるような、そんな感じでした。

  これからも素敵な小説を期待しています。
  では、黒澤さんのこれからのご発展を祈りつつ。


 ぷもに和尚さんも小説をお書きになる方なので、作者があちこちの小説の登場人物を一堂に集める物語をどれだけ楽しんでいたのか、見抜いていらっしゃいます。
 「蜘蛛の旋律」は、小説を書くことを心の底から楽しんでいる、小説書きの物語でもあります。
 読んでくださった方が、「空想することの楽しさ」に共感していただけたのでしたら幸いです。


 【ハンドルネーム・おとわさん】 ― 全文 ―

  【石獣庭園】のおとわです。
  毎日連載小説「蜘蛛の旋律」完結おめでとうございます。お疲れさまでした。
  最後までおつき合いすることができて、私も嬉しく思います。

  オープニングで叔父さんからの問いかけに信市が答えを出した形で終わったこの作品は、まるでその答えを導き出す旅に出ているような感じでした。
  信市が答えを見つけることができたという点だけでも、結末としては納得できるものでしたが、キャラクターたちそれぞれが新たな世界の神を見出すための旅をしていたのだな、と思うとそれぞれの旅路が二重写し三重写しに見えてきて少々切なさも感じます。

  と同時に、失う神への復讐という言葉を信市は使いましたが、私にはキャラクターたちが薫へ向けた愛情のための心中劇とも取れました。
  彼らは確かに自らの死を恐れていたのでしょうけど、同じくらいに薫という神を愛するがために一緒に死を迎えることに抵抗はなかったのではないかと思えるのです。共に死を迎えることによって神と同質のものになろうとするかのような彼らの行動が、すべてを読み終えてみると胸に痛みます。

  野草薫の生き方はキャラクターそれぞれに反映されていますよね。
  薫が自らの存在を信市に刻むために古本屋へと案内し、そこで爆発事故に巻き込まれたように、キャラクターたちもそれぞれの存在を印象づけるために、信市を、時には罵倒し、時には諭し、時には恋してみせる。
  それらは結局最後に信市を自分たちの新たな神に仕立て上げるためのものだったわけですが、彼らの行動にダブって薫の心情が透けて見えるようです。
  信市を罵倒したのも、諭したのも、恋したのもすべて薫という人格に反映されていると考えたとき、この物語は非常に繊細で、大胆な恋物語にも見えてきます。

  主人公の答え探しの旅と彼を振り向かせようとする少女の恋との二軸が見事に絡み合ったストーリーだったと思います。
  残念ながら薫は亡くなってしまいましたが、彼女からのメッセージを抱いた信市がまた新たな世界を構築していくことでしょう。
  信市が作り出していくキャラクターは、薫が作り出したキャラクターとまったく同じキャラクターであるわけではありませんが、信市はその結果に納得しているでしょうし、薫もまた小説を書くというその行為を通じて永遠に信市と繋がっているわけですから、彼女もまた納得しているのではないかと感じます。
  むしろ逃れられないほどの呪縛を与えたという点で薫のほうに軍配があがるのではないでしょうか。

  改めて読み返してみると、淡々とした語り口でありましたけど、繊細さを随所に感じる作品でした。
  連載初期の一時期メルマガ購読の中止をされた方が何人か出た、と黒澤さんがコメントに書いていらっしゃいましたけど、今なら「どうだ! 途中で解約して損しただろ!」と言いたいくらいです。
  夢の混沌と現実の混沌がいい具合に混じり合ったストーリーでしたよ。
  今後は少々お休みの期間をおかれるそうですが、また紙面で黒澤さんの作品が読める日を楽しみにしております。

  改めて、面白い作品を配信してくださってありがとうございました。
  またWebでお逢いしましょうね。(^_^)/~~


 巳神信市は、小説の中で1つの答えを提示しました。
 その答えは現時点の彼の中では、ほぼ絶対的なものなのだと思います。
 でも、その答えにしても、たかが10年間で彼が辿り着いた答えの1つにしか過ぎません。
 もしかしたら、5年後10年後には、まったく違う答えを導き出しているのかもしれないんです。

 この小説に、絶対的な答えというのは存在しません。
 おとわさんが巳神信市とは違う答えを導き出したように、皆さんもぜひそれぞれの答えを探してみてください。
 そうすることで、この「蜘蛛の旋律」は、また新たな側面を見せてくれることでしょう。

 ぷもに和尚さん、おとわさん、ご感想及び掲載を快く承知してくださいまして、本当にありがとうございました。
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あとがき・4
 さて、あとがき第4回(;)です。
 今日はお読みくださった皆様から、いくつかのあたたかいご感想をいただきましたので、その中で許可をいただけた3つの感想を公開させていただきます。


 【ハンドルネーム・マーサさん】 ― 一部抜粋 ―

 約半年もの間ご苦労さまでした。昼ご飯後にメールを読むのが、日課になってました(笑)。エンディングは予想とは違い、まさか野草が死ぬとは思ってませんでした。でも、やっぱり、野草は巳神を好きだったのでは?
 また、新作を始められたら、ぜひ読ませて頂きたいと思います。
 ありがとうございました!


 マーサさんはiモード版でずっとお読みいただいていた方です。
 野草が巳神を好きだったのではないかとは、私も思っています。
 巳神が出せなかった答えを感じ取っていただけたのでしたらすごく嬉しいですね。


ここからはPC版の方です。

 【ハンドルネーム・take4さん】 ― 一部抜粋 ―

 「蜘蛛の旋律」楽しく読ませて頂きました。
 とても楽しかったです。これから毎朝の楽しみがなくなるのが寂しいです。
 また何か小説を書くんでしたら連絡欲しいです!
 「蜘蛛の旋律」は登場人物が知ってる方たちばかりで楽しかったです。
 (地這いの一族は知らなかったけど・・・)
 私の名前はタケシだけにタケシが最後まで復活しなかったのが心残りです。

 っとそのような感じでこの作品を楽しく読ませていただいて、とても感謝しています。


 もしもシーラが一筋の希望を抱いていたのだとしたら、それはタケシの復活がもたらしてくれるものだったのかもしれません。
 私の頭の中でシーラは、タケシが苦しまずに消滅できただろうことを思って、それを唯一の慰めにしていたようなところがあります。
 また新しい連載が始まる時にはご連絡しますね。(←思いっきり私信ですね;)


 【ハンドルネーム・草薙さん】 ― 一部抜粋 ―


 毎日の連載、お疲れさまでした。
 僕は朝起きてから学校に行くまでの時間に読んでました。
 毎朝の日課でしたよ。
 今回の連載では、僕も色んな物を学びました。
 主人公の語りの文章構成、それから物語の展開。
 まだ勝てないなぁ・・・と思いながら読ませていただきました。
 先に書かせてもらいますと、終盤に出てきた他作品の登場人物たちがほとんど知らなかったのが残念でした。
 実は、いまだに葛城達也のことをよく知らなかったりします。
 きっと、知ってると楽しみ方が倍増していたんでしょうね。
 さて、「蜘蛛の旋律」を読みながら考えてたことがあります。
 野草のモデルは黒澤さん自身。
 巳神君のモデルは黒澤さんが好きだった人なのかな。
 その人に小説を読んでほしかった、もしくは読んでもらっていたのかな・・・と思いました。
 深読みしすぎかもしれませんね。
 主人公の歳は高校生ぐらいが読みやすいようです。
 誰もが通ってきた、過ぎた時間に自分を置き換えることもできますよね。
 ペルソナのテーマもそこにありますし。
 野草を助けることができなかったのが、かな〜り残念でしたが、巳神君は再び登場キャラのみんなに出会うことができるのでしょうか。
 想いが現実になる世界って見てみたいですよ。
 文中にもありましたが、メルマガ連載はしばらくお休みなんですか?
 毎日連載って辛いですよね。

 最後に、楽しませていただきありがとうございました。
 お身体に気をつけて、ゆっくりお休みください。


 現在の黒澤はどちらかといえば「黒澤弥生」の方に近いですけど、高校生の頃は野草薫みたいだったかもしれないですね。
(でも巳神信市みたいな友達はいなかったな……;)
 お言葉に甘えて、次回作までゆっくりお休みさせていただこうと思います。
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あとがき・3
 さて、あとがき第3回(笑)です。

 巳神信市が読んだ野草薫の小説は、厳密に言えば私の小説としては存在していません。
 私は彼女ほど小説が上手ではないので、私の実力では彼女の小説を実在させることができないんですね。
 という訳で、私が書いた小説は、巳神信市が書き直した方の小説、ということになります。

 小説を書いていると、タイプがどんどん進む時もありますし、逆にまったく指が動かない時もあります。
 たまにすごく昔に書いた小説を読み返して、「これって、ほんとに自分が書いたの?」と驚くことがあるんですよね。
 確かにその小説を書いた記憶はあるのですが、今の自分では思ってもみないすばらしい表現を使っているんです。
(あくまで私の視点ですので、他の人が見ればたいしたことはないでしょうが;)
 まるで、自分ではない誰かが、自分に成り代わって書いているような気がすることがあるんですね。
 小説の中の私「黒澤弥生」は、巳神信市の下位世界に存在する、小説を書くためのキャラクターです。
 実際のところは私の下位世界に巳神信市が存在しているのですけど、彼自身は自分の神が黒澤弥生であることは知らないでしょう。
 同じように、私自身も、自分の神が誰なのかは判りません。
 ということは、私だって、誰かの下位世界の人間なのかもしれないですよね。

 小説を書くことは、その世界に生きるキャラクター達の神になることです。
 すごく楽しくてエキサイティングなのですけど、キャラクターが育てば育つほど、野草薫のようにキャラクターに裏切られたりもします。
 まあ、それも楽しいんですけどね。
 このメルマガを読んでいる方で、もしも少しでも興味があるのでしたら、ぜひ小説を書いてみてはいかがでしょうか。
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あとがき・2
 さて、あとがき第2回(笑)です。

 私の小説というのは、ほとんど私の願望がもとになっています。
 「こうなったらいいな」とか、「こういうことが現実にあったら楽しいだろうな」なんて思ったことを、小説にしているんですね。
 そして、実際に小説を書いてみると、私の頭の中ではその願望は確定して、世界として確固たる地位を確立してくれたりします。
 もちろん私の頭の中だけのお話ですから、それが現実になるということはないんですけどね。
 でも、この現実ではないどこか、亜空間の世界ででも、ぜったいどこかで実在してくれている気がするんです。

 今回、巳神信市の前に野草薫のキャラクターが出現するというシチュエーションを書くために、黒澤はこの「願望の世界」というのを理屈でこねくり回して作り上げてしまいました。
 作中でもありましたけど、人間の五感というのは世界のすべてを情報として正確に脳に伝えている訳ではないですし、五感から入力された情報は、脳によってかなりの部分が改ざんされます。
 同じものを見ていても、そのときの脳の状態によって、見えるものはかなり違ってしまうんですね。
(暗い夜道を歩いていたら、ごく普通のおじさんも痴漢に見えますし;)
 つまり、人間というのはけっきょく、自分の脳が作り上げた世界でしか生きていないのだ、ということになります。

 夢も、現実も、自分の脳の中で繰り広げられている世界であるという意味では、ほとんど同一のものなんですね。
 もしも夢が実在しないのだとしたら、私たちが生活するこの現実世界が実在するということを、果たして証明することができるのでしょうか。
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あとがき・1
 毎日連載小説「蜘蛛の旋律」を最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。
 5ヶ月以上もの間読みつづけてくださった皆様に、深く御礼申し上げます。
 つたない文章で、誤字脱字、わかりづらい表現等、多々あったと思います。
 この場でまとめてお詫び申し上げます。


 さて、今日から数回に渡って、あとがきを掲載していこうと思います。

 この「蜘蛛の旋律」は、今から10年くらい前に書き始めて途中のまま止まっていたものを、オープニング以外のストーリーをがらりと変更して書き直したものです。
 この頃書いた小説で多いのですが、いわゆる「企画倒れ」というもので、おおよそのストーリー以外決めないで書き始めるので、どうしても途中で行き詰まってしまいまして。
 作中の巳神信市がシーラの話を完成させられなかったのと同じで、要するにそのときの実力以上の小説を書こうとしていたんです。
 でも、オープニングだけは妙にしっかり書いてあったので、14話の頭くらいまでは10年前の文章をほとんど直さないでそのまま使ってたりするんですね。
(10年前と今とでそれほど文章が上達していないのがバレバレですね)

 書き始めたきっかけというのは、私の小説のほぼすべてがそうなのですが、私自身の「願望」でして。
 「もしも私が生死を彷徨う目にあったら、誰かに命がけで助けてもらいたい!」というものだったんですね。
(↑思いっきり利己的ですが、まあ、人間の願望なんてこんなものでしょう)
 書いているうちにだんだんキャラクター自身も利己的な行動を取り始めたので、最初の願望とはかなり趣旨がずれてしまいました。
 でも、うちのキャラはみんな無条件で自己犠牲するようなタイプじゃないですから、生きているキャラを描くためにはストーリーの方を犠牲にするしかないんですよね。
 ほんと、小説のキャラはぜったい作者の思い通りになんか動いちゃくれませんね。
 んまあ、もう1つの願望「自分のキャラを思いっきり殺したい!」というのは叶えられたので、それでよしとしましょう。
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蜘蛛の旋律・141/最終回
 オレは、野草ほど小説が上手じゃない。オレの下位世界も野草ほど詳細じゃないから、現実世界に実体化しているのも黒澤弥生ただ1人だ。だけど、これから先小説を書き続けていけば、いずれはオレも野草のようになれるだろう。すべてのキャラクターを実体化させて、風景を変え、歴史を変えることができるだろう。
 実はオレは、葛城達也たちに神に祭り上げられたことを、それほど怒ってはいなかった。生きているものは誰だって、自分が生きるために最善を尽くそうとする。子供を作って自分の遺伝子を残そうとすることもその1つだ。それは生きているものの本能で、野草のキャラクター達はより生き物に近い存在だっただけなんだ。
 彼らは、オレの記憶の中に、野草が作り上げた自分のイメージという遺伝子を植え付けた。そのイメージはオレが持つイメージと結合して、オレが書く新たな小説の中に誕生する。もしかしたらそんな彼らはオリジナルの彼らとは違うものなのかもしれない。だけど、彼らは間違いなく野草のイメージを受け継いだ、言ってみればキャラクターの子供たちなのだ。
 オレは、オレが世界を変えることを恐れてはいない。小説が風景を変えることを、むしろ楽しいと思う。そのあたりがオレと野草の違いなのだろう。少なくともオレは、野草と同じ理由で自殺を選ぶことのない、野草よりも強靭な精神を持った神なのだ。

 もしも、キャラクターがすべて実体化するくらいにオレの下位世界が育ったら、そのときは本物の『蜘蛛の旋律』を書いてみようと思う。
 人類のほとんどが死滅するほどの災害と、その1000年後に繰り広げられる新しい文明の世界。果たしてそれは実現するのだろうか。それとも、オレが死んでオレの下位世界が消滅した瞬間、世界はすべて元に戻るのだろうか。
 楽しみにしていようと思う。
 小説を書くことで、オレが本物の神になり、再びシーラに出会えるその瞬間を。

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蜘蛛の旋律・140
 黒澤弥生はオレを、野草に代わる新しい神に仕立てるために、野草の下位世界に召喚したのではないだろうか。
 野草を救うためには役立たずでも、野草の小説を好きでシーラに恋までしていたオレは、野草の物語を受け継ぐには好都合だったはずだ。今まで自分の小説を書いたことはないけれど、ほかの人間の小説になら山ほど触れてきた。多少の不安はあっても、まったく小説に興味がない人間よりは、小説を書いてくれそうな気がする。あとはどうやってオレをその気にさせるかだ。キャラクター達はそれぞれ方法を考えて、シーラが取った手段が、オレに恋を仕掛けることだったんだ。
 万が一にも野草がオレに説得されないように、彼らはオレに真意を悟られないよう注意しながら、小説『蜘蛛の旋律』の存在を隠してきた。片桐信が言った「お前達は本当は既に目的を果たしたんだろ?」という言葉の意味は、「お前達は巳神信市に自分の存在を印象付けることに成功したんだろ?」というようなものだったんだろう。確かにオレは、小説を読んだ時よりも更に明確に、彼らを自分のイメージとして取り込んでいた。そのあとアフルと武士に倒されていったキャラクターもそうだった。たとえ操られていたとしても、実物を見てその姿を目に焼き付けたことで、オレの中のイメージはより明確になっていったのだ。
 葛城達也は、野草と一緒に死にたかったんじゃない。自ら命を絶ってまで自分を殺そうとした野草に復讐しようとしたのだ。
 オレは、そんなあさましいキャラクター達の、新たな神に選ばれた生け贄だったんだ。

「 ―― へえ、不思議な話だね。でもおもしろそうだから書いてみたいな。みんな今まで書いたことがあるキャラばっかりだから、新しく人物設定しなくてもよさそうだし」
 黒澤がその気になっていたから、次回作はこれに決まりそうだった。オレが生み出した、オレのキャラクター。黒澤弥生の運命は、オレが握っているのだ。
「それで? タイトルはどうしようか」
「『蜘蛛の旋律』でいいだろ。意味もよく判らないし、どこかおどろおどろしくてピッタリだと思うぜ」
 こうして、なにも知らない黒澤弥生によって、オレの『蜘蛛の旋律』は動き始めた。
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