あとがき・2
 さて、あとがき第2回(笑)です。

 私の小説というのは、ほとんど私の願望がもとになっています。
 「こうなったらいいな」とか、「こういうことが現実にあったら楽しいだろうな」なんて思ったことを、小説にしているんですね。
 そして、実際に小説を書いてみると、私の頭の中ではその願望は確定して、世界として確固たる地位を確立してくれたりします。
 もちろん私の頭の中だけのお話ですから、それが現実になるということはないんですけどね。
 でも、この現実ではないどこか、亜空間の世界ででも、ぜったいどこかで実在してくれている気がするんです。

 今回、巳神信市の前に野草薫のキャラクターが出現するというシチュエーションを書くために、黒澤はこの「願望の世界」というのを理屈でこねくり回して作り上げてしまいました。
 作中でもありましたけど、人間の五感というのは世界のすべてを情報として正確に脳に伝えている訳ではないですし、五感から入力された情報は、脳によってかなりの部分が改ざんされます。
 同じものを見ていても、そのときの脳の状態によって、見えるものはかなり違ってしまうんですね。
(暗い夜道を歩いていたら、ごく普通のおじさんも痴漢に見えますし;)
 つまり、人間というのはけっきょく、自分の脳が作り上げた世界でしか生きていないのだ、ということになります。

 夢も、現実も、自分の脳の中で繰り広げられている世界であるという意味では、ほとんど同一のものなんですね。
 もしも夢が実在しないのだとしたら、私たちが生活するこの現実世界が実在するということを、果たして証明することができるのでしょうか。