覚醒の森25
 15歳になったミクは僕より背が高くて、女性らしい体つきに変わっていた。でもそうなればとうぜん迎えていていいはずの初潮はまだなかった。僕は相変わらず14歳のままで声も変わらなかったから、以前のようにミクを妹と紹介することはできなくなっていた。
 日に日に成長していくミクが僕にはまぶしかった。同時にうらやましくて妬ましかった。ミクはいったいどう感じているんだろう。いつの間にか年下になってしまった僕は、ミクにとっては成長して読まなくなった絵本の王子様と同じものでしかなかったのかもしれない。
「 ―― 大河、そのピアス、どうしたの? 鼻や唇まで」
 僕が河川敷のテントに帰ってくる早々ミクが訊いた。僕は穴を開けてもすぐにふさがってしまうから、ふだんピアスをすることはない。
「昨日の相手がピアス狂だったんだ。顔だけじゃないよ。ヘソと乳首とあそこまで刺された。先に外すから、食事は少し待ってて」
 僕が鼻と唇と舌の裏側を外し始めると、ミクが両耳を外すのを手伝ってくれた。
「こんなにたくさん、痛くないの?」
「痛いよ。こんなの、好きであけてる人間の気がしれない。でもミクがあけたいなら耳のヤツ使っていいよ」
「……ううん、あたしはいい」
 両耳に3つずつ並んだピアスにミクが苦戦している間、僕は上半身をはだけて乳首にかかった。ミクの動きが止まる。
「大河……」
「ん? なに?」
「……やっぱりあたし、大河と一緒に道に立つよ。大河にばっかりこんなひどい思いさせたくないもん」
 見上げると、ミクの視線が僕の乳首の中心を貫くピアスを見つめているのが判った。僕はやや乱暴にそのピアスを引き抜いた。
「別に、ただ痛いだけだよ。こんなの傷跡も残らないし。それに、ミクがいようがいまいが僕にはこういう生活しかないんだ。見ているのが嫌なら、ミクが家に帰る決心をしてくれた方が僕は嬉しいよ」
 ミクが唇をかみ締めてうつむく。似たような会話はこれまでにも何度か交わしていて、そのたびに僕は同じ言葉を繰り返していた。
 かつて僕に絵本の王子様を夢見たミクは、破れた夢に必死でしがみつこうとしているように、僕には思えた。