覚醒の森14
 僕はかばんの中から洗濯済みの服を取り出して着替えたあと、少女を手伝って床をきれいにした。そして台所にたくさんあったレトルトのカレーとパックライスをあたためて用意すると、再び少女と向き合った。
「僕は大河。えっと……14歳。君の名前を教えて」
 少女は床に指先で文字を辿った。漢字で「未来」、ひらがなで「みく」、そのあと「12さい」と書いた。
「ミク? いい名前だね。12歳ってことは、中学生かな?」
 ミクは首を横に振ったから、12歳でもまだ小学生ってことらしい。いつからここにいるのかという質問には、ミクはただ首を振っただけだった。ミクはあの男に裸で組み敷かれていた。片足は今でも長い鎖でつながれている。ミクがここであの男に監禁されていたらしいのは、この2年あまりの記憶しかない僕にも判ることだった。
 僕はミクの足の手錠をはずそうと試みたけれど、今の僕の力ではどうすることもできなかった。だけど、今まではずっと気づかなかったけれど、昨日5人の男を殺してはっきり判ったんだ。僕は満月の夜になればふだん考えられないほどの強い力が出せる。だから次の満月にはこの手錠をはずして、ミクを助けてあげられるかもしれない。
 でも、ミクはきっと僕を怖いと思っているだろう。ぼくはミクの目の前であの男を殺した。開け放たれた扉の外での様子はミクにもしっかりと見えていたはずだ。それに、そのあと僕はミクに襲い掛かって、彼女の血を吸ったのだから。
「ミク、あと何日かだけ、ここで待っててくれる? 明日になったら僕が山を降りて、警察を呼んできてあげるから。……その代わり、僕があの男を殺したことを警察には黙ってて欲しい」
 そのとき、ミクは急に目に涙を浮かべて、僕の片腕を抱きしめたんだ。初めてのことで僕は戸惑ってしまった。ミクの腕が震えて、その震えが僕の腕にも伝わっていたから。
「ミク? どうしたの?」
 ミクは何度も首を振って僕を放さなかった。……そうか、ミクは本当に怖い思いをしたんだ。あの男に監禁されて、鎖につながれたまま何度も組み敷かれて、おそらく声すらも失ってしまうほど。
 僕は自由になる片手で何度もミクの髪と背中をなでた。彼女が1日も早く、恐怖の記憶を忘れてしまうことを願いながら。