覚醒の森13
 次に目覚めたときには、外は既に暗くなっていた。目を開けると僕の前には見知らぬ少女がいて、僕の肩を揺り動かしていた。僕は何か言葉を言おうとして声が出ないことに気づいた。少女もそれに気づいたのか、僕の目の前にコップの水を差し出してくれた。
 身体を起こして夢中で水を飲んだ。そして、改めて目の前の少女を見る。少女は僕に対する態度を決めかねているような不安な目をして僕を見つめていた。安心させようと少しだけ微笑むと、少女もほんの少し微笑んで、指で小屋の奥を指し示した。
「……なに……?」
 急に僕は思い出して肩口を押さえてみた。傷は既にふさがっていたけれど、よほど深い傷だったのか完全に治った訳ではなかった。僕の様子を見ていた少女が再び小屋の奥を指差す。そのあと僕を立ち上がらせるように手を取ったから、仕草に合わせて立ち上がると、少女は僕の手を引いて歩き始めた。
 それで初めて気が付いた。少女の片足には手錠がかけてあって、その先の長い鎖を引きずって彼女は歩いていたんだ。
「それ……」
 少女は首を振ると、気遣うそぶりの僕を強引に風呂場へと案内していった。大き目のバスタオルを押し付けられてピシャッとドアを閉められてしまう。木製の湯船にはしっかりとお湯が張ってあった。
 僕は血まみれの服を脱いでまずは湯船に浸かった。息を止めてお湯にもぐると、身体中に染みついていた血がいくらか落ちて、お湯が赤く染まるのが判った。僕はかなりの時間をかけて自分と自分以外の人間が流した血をすべて洗い落とした。ようやくバスタオルを巻いて部屋に戻ると、少女が板の間に流れた血を雑巾で拭いている姿が目に入った。
 気配に振り返った少女に僕は、この2年で覚えた笑顔を見せて言った。
「お風呂、ありがとう。……君、名前は?」
 少女は喉を指で抑えて、僕に視線で訴えかけるような仕草をした。
「……もしかして、口がきけないの? ……耳は? 僕の言葉は判る?」
 少女が2回うなずいたから、僕には彼女が僕の2つの質問の両方に肯定したことが判った。