覚醒の森10
「ぅひゃーっ、激マブ!」
「初めてじゃねえ? こんな上モノはよ」
 後部座席で2人に挟まれた僕は、すぐに口と手足を粘着テープでぐるぐる巻きにされてしまった。カーステレオからは激しい音楽が大音量で垂れ流されている。両隣の2人は僕の身体を撫で回して、走り出してすぐに気づいていた。
「おい、こいつ男だ! 女装野郎だよ!」
「マジかよ! カーッ、だまされたー!」
 4人は僕を小突きながら卑猥な言葉を交えて僕を罵った。僕は半分涙目になりながら視線で解放を訴える。最初の盛り上がりは失せてしまったのだけど、静かになったところで1人が言ったんだ。
「おい、おまえら、男ヤッたことあるか?」
「……ねえ」
「……ねえかも。けど別に女とそう変わらねえよな」
「だな。ま、オレとしちゃはっきり言って男でも女でもかまわねえし」
「そんじゃ、今日は変わった趣向で、ってことで。いまさら戻って別の獲物探すのもタルいしな」
 助手席から振り返って僕を覗き込んだ男がにやりと笑った。その顔に恐怖を感じて僕の背筋が凍る。今までだって僕の身体にひどいことをする男は何人もいたんだ。だけど目の前の男の顔は、僕が今まで出会った人間とは比べ物にならないくらい残忍に見えた。
 僕を乗せた車は街を離れ、どうやら山道に入ったようだった。舗装さえ満足にされていない森の中の道を走り続けていく。やがて車が止まって、僕は後部座席の1人に車から引きずり落とされた。手足を拘束された僕は堆積する木の葉と枯枝の上に落ちるしかなかった。
 車はそこに置いたまま、男たちは僕を担いで更に山の奥へと入っていった。ようやく下ろされて顔のテープをはがされたときには、僕は空腹で半分おかしくなっていたのだと思う。1人が話した言葉の意味もぜんぶ理解できたとはいえないから。
「 ―― 安心しな。泣こうが叫ぼうが声は誰にも届かねえし、どこまで逃げても必ず捕まえてやる。何気にオレたち、死体の処理も完璧だったりするんだぜ。もちろんオレたち4人から逃げ切ったらおまえの勝ちだ。……んじゃ、そろそろ始めようぜ、人間狩りゲーム」