覚醒の森6
 ルイは毎晩僕を裸にした。いつも痛みはあって、ときどき血が滴り落ちるほど傷つくこともあったけど、それを嫌だと思うことは1度もなかった。何度か身体を重ねたとき、ルイは僕を不感症だと言った。ルイに触れられて僕自身が変化するということはなかった。
 ルイは「愛してる」と言いながら僕に触れて、あとで泣きながら僕に謝った。そのうちに「おまえが男のくせに綺麗すぎるからいけないんだ」とののしるようになって、泣きながら僕の顔を何度も殴りつけた。僕は何も変わらなかったのに、ルイはどんどん壊れていった。殴られた僕の顔は翌日には綺麗に治ってしまうのに、僕を殴ったルイの心の傷はどんどん深くなっていった。
 日に日に壊れていくルイを、僕ではどうしてあげることもできなかった。むしろ僕も一緒に壊れてあげられたらその方がずっと良かったのかもしれない。
 ルイが触れるようになってから半月、出会ってから4週間近く経ったときだった。僕の身体に初めて変化が起こっていた。全身が熱く脈打つようで、呼吸が速くなった。ルイに触れられていると頭が混乱して何も考えられなくなっていった。いつの間にか閉じていた目を薄く開けたとき、僕に触れるルイの表情が久しぶりの笑顔に変わっているのに気が付いた。
「大河、おまえ……やっとオレのこと、受け入れてくれたんだな」
 そう言って僕を抱き寄せるルイの腕は優しかった。だけど僕は半分上の空で、ルイの首筋に浮かぶ血管をじっと見つめていた。いつもよりも更にはっきりと浮かび上がる赤い血管。 ―― 今、僕が欲しているのはルイの身体じゃない。ルイの血管だ。
 抱き寄せるルイを強引に引き離して体勢を入れ替えた。僕に押し倒されたルイの目にかすかな驚きがある。
「欲しい、ルイ……」
 僕は夢中でルイの首筋に唇を押し当てた。おそらく痛みを感じたのだろうルイがあわてて僕を押しのけると、僕の唇から滴り落ちた赤い血がルイの胸元に落ちた。
 ルイの目の表情が驚きから徐々に恐怖に変わっていく。
「なん、で……。大河、おまえ……!」
「ルイが欲しいんだ。……お願い。ルイの血、僕にちょうだい」