覚醒の森2
 たとえて言うなら、このときの僕はジグソーパズルだった。パーツはすべて揃っているのに、それらがぜんぶバラバラになっているから、全体像が見えてこない。1つ1つのパーツが何を意味しているのかも判らない。だけどルイと会話することで、そのとき必要な部分に当てはまるパーツだけが選び出されて、ほんの少しずつだけどパズルが組みあがっていくのが判った。
 雨が降り始めて少ししたとき、ルイは1つのアパートの前で車を止めた。僕の腕を掴んで部屋まで連れて行ってくれる。玄関でためらう僕の靴を脱がせて部屋へとあげてくれた。そして、僕はすぐに風呂場に押し込まれた。
「とにかくシャワーで泥を落とせ。その間になんか着られそうなもの、用意しといてやるから」
「……着替え、貸してくれるの?」
「スウェットくらいしかないけどな。サイズがデカすぎるとか文句言うなよ」
「言わない。……ありがとう、ルイ」
 服の脱ぎ方も、シャワーの使い方も、それほど戸惑うことなく判った。僕はそのへんにあったシャンプーや石鹸で勝手に身体を洗って、用意してあったバスタオルで身体を拭いたあと、髪を拭きながら部屋に戻った。振り返ったルイが僕を見て立ち上がったまま固まる。
「……天使、だな、まるで。……畜生、なんで男なんだよ」
「僕、どこか変?」
「変?って。……おまえ、カガミ見たことないのか? これだけ見た目が完璧な野郎なんてそうはいないぞ。悔しいが男の身体を綺麗だと思ったのなんか初めてだオレは」
「カガミ、見せてくれる?」
 ルイがそっけない仕草で指差したところに、壁に立てかけられた鏡があった。床にしゃがんで覗き込んでみる。……違う。これ、僕の顔じゃない。この顔は ――
「……一二三……」
 鏡に映った顔に向かって、僕はその名前をつぶやいていた。