幻想の街23
 その週が終わるまで、あたしはミチル先輩のスケジュールを探り続けた。でも、毎日横地先輩と帰り始めたミチル先輩とはなかなか個人的な会話をする機会がなくて、金曜日になってもぜんぜん判らなかったんだ。今週の土曜日はうちの学校もお休みになる。そんな金曜日の帰り道、ちょっと言いづらそうにカズ先輩が言った。
「あの、明日さ、もしよかったらどこかへ行かない? 映画の新作も始まるし……ほら、天気もさ、よさそうだし」
「明日はちょっと……。このところお洗濯サボってて、明日しかあいてなくて」
「そ、そうだよね。サエコちゃんは主婦代わりなのに毎日生徒会につき合わせちゃってるのはオレの方だし。……それじゃ、明後日は?」
「兄と美術館に行く約束があるんです。先週からの約束なので……すみません」
 カズ先輩は落胆したようでしおれてしまった。その仕草がなんだかすごくかわいらしく見える。……とうぜんかもしれない。この人は、あたしが普通に成長していれば4歳も年下になっているはずなんだから。
「あ、でも、もし先輩さえよければ夜ならあいてます。はっきり確約できないんですけど、たぶん6時前には戻ってこられますから」
「……本当?」
「はい。よろしかったらお夕食、一緒に食べませんか?」
 振り返ったカズ先輩の顔がパーッと輝いたのが判って、わき上がってきた罪悪感がちくりと胸を刺す。あたしはミチル先輩からカズ先輩を引き離すためにこの約束をしているんだ。そして万事うまくいったあとは、カズ先輩と夕食を食べながらあたしが再び転校することを話すつもりでいる。
 カズ先輩とは日曜の夕方6時に駅で待ち合わせて、翌日の土曜日は予告どおりの洗濯と掃除をした。軽く荷物もまとめておく。日を追うごとに美幸はどんどん落ち着きをなくしていったから、明日ちゃんと決められなければ美幸が本当に壊れてしまうような気がした。
「 ―― 大丈夫。ちょっとだけ、いらいらするだけだから。……なにかあったら連絡して。万が一、回収に失敗しても、僕が夜中に忍び込んであげるから大丈夫だよ。だからけっして無理はしないで」
 そう、笑顔で告げる美幸が痛々しくて、あたしは美幸が眠りにつくまでずっと彼の手を握っていた。