幻想の街19
 年に1度の祭りのあと、翌日の月曜は日曜の振り替えで学校はお休みだった。火曜日の1時間目は教室の片付けにあてられていて、次の授業からはどのクラスも日常に戻っていく。放課後の生徒会もその日は文化祭の片付けに暮れた。労働のあとは、生徒会顧問の先生が好意でジュースを差し入れてくれたから、帰宅前のひとときは生徒会室で軽い雑談タイムになっていた。
「 ―― あの、ちょっと訊きますけど、会長とサエコちゃんてやっぱ付き合ってるんですか?」
 あたしとカズ先輩を等分に見ながら横地先輩が言ったんだ。あたしは何も言えなかったのだけど、少し照れたようにカズ先輩が答える。
「このところ忙しかったからまだそこまでいってないんだけどね。でもこれからは本格的にデートするつもりだよ」
 カズ先輩がそう言った瞬間、周囲から異口同音の悲鳴が上がった。ここまではっきり肯定されるとは誰も思ってなかったのだろう。
「カーッ! やられたぁー! くっそー、まさか会長がこれほど手が早いとは計算外だったぜ! オレだってサエコちゃん狙ってたのに」
「マジかよぉ! ようやく現われた理想の美少女! うちで貴重な紅一点がぁ ―― 」
「ちょーっと! 今のセリフ、めっちゃくちゃ聞き捨てならないんだけど。サエコちゃんのどこが紅一点な訳? 説明しなさいヒロポン」
 がたんと音をさせて椅子から立ち上がったのはミチル先輩で、そう言い終えるとちょっとだけ怖い顔をして横地先輩の胸倉を掴み上げていたんだ。
「あの、ミチル先輩。確かにオレの名前はヒロヤですけど、頼みますからポン付けで呼ぶのだけは勘弁してくださいって前から……」
「なんでよ。横ちンじゃ嫌だって言うから名前で呼んでやってんじゃん。……って、そうじゃなくて、サエコちゃんが紅一点だったら、このあたしは女じゃないって言うの?」
「それ言ったのオレじゃないっすよー! 文句なら桜庭に ―― 」
「あたしはあんたに訊いてんの! で、どうなの、横地」
「も、もちろんミチル先輩は立派な女ですよ。オレらにとっては憧れのマドンナっす!」
「……あこがれ?」
「いやその、理想の女性っつーか、ほとんど女神様、いや女王様かな。敬愛してますマジで!」