幻想の街18
 ステージ部門で、なんと1年1組は準優勝に輝いていた。3位までに入賞したクラスは2日目の一般公開でも同じステージを披露するんだ。思いがけないことでクラス全員驚いたんだけど、とりあえずUFOのセットはまだ無傷だったから、1日目よりも更にハイテンションになったステージをどうにか無事に終えることができた。午前中はそんなこんなであたふたしていたのだけど、午後は予定通り人気のないところへ隠れていて、一般公開が終わった後夜祭の時刻になってからさりげなくグランドに集まる生徒の群れに合流した。
 日没は5時半。あたりが暗くなるにつれて、正中に輝く半月が世界を支配し始める。
 後夜祭を仕切るのは生徒会の面々だった。ステージにはこの学校の名物である双子の兄妹がマイクを持って立っていて、キャンプファイアーを生演奏で盛り上げてくれる素人バンドの紹介をしている。徐々に吸血鬼としての感覚が戻ってくるのが判った。今日こそあの2人のうちのどちらが宿主なのか判るはず。
 気持ちを引き締めて、バンドの演奏開始とともにステージを降りた2人のところへ近づいていった。先にあたしに気づいたのはミチル先輩だった。カズ先輩の肩をたたいたあと、手を上げてあたしに駆け寄ってくる。
「サエコちゃーん! 楽しんでるぅー?」
 長身のミチル先輩に抱きつかれてドキッとした。 ―― 間違いなかった。種の宿主はミチル先輩の方だったんだ。
「こっちこっち、こっちきて一緒に踊ろっ!」
 ミチル先輩にステージ下まで引っ張り出されて、否応なしに身体でリズムを刻んだ。あたしは踊りなんて踊ったことがない。音楽に負けないように大きな声を出して必死にそう伝えたのだけど、ミチル先輩は「いいからいいから」って言って取り合ってくれなかったんだ。うしろを追いかけてきたカズ先輩も、最初苦笑いを見せていたのだけど、やがて乗ってきたのかあたしたちの輪に加わる。あたしを挟んだ両側で息の合ったダンスを見せる2人に複雑な感情を覚えていた。
 2人にとっては高校最後の文化祭。その後夜祭にはきっと特別な想いがあるのだろう。この1年間生徒会長と副会長として過ごしてきたことの、これが集大成なんだ。たとえ身体は同じリズムを奏でていても、あたしが2人と同じ想いを共有することはできない。
  ―― 今は何もかもを忘れて2人と一緒に楽しもうと思った。それが、今のあたしにできる最高のことなんだって、そう心から信じて。