幻想の街11
「なによぉ! カズにだって優秀でかわいい妹がここにいるじゃん!」
「ほら、ミチは妹ってより同志とか幼馴染って感じだし。そうだ、うちにも兄がいるんだよ、6歳上の。ミチは兄貴に猫っかわいがりされてね。おかげでものすごく奔放な性格になった」
「カズだって兄貴にべったりで性格そっくりじゃん! あーあ、あたしもサエコちゃんみたいなかわいい妹が欲しかったなー」
「そう? オレは秋葉さんみたいなかわいい妹もいいけど、やっぱりミチのような同志がそばにいてくれる方が嬉しいけどね」
 カズ先輩がにっこり笑ってそう言うと、ミチル先輩はそれ以上突っ込めなくなってしまった。あたしの両親の話から巧妙に話題をそらして、でも誰も傷つけずにその場を収めてしまう話術は河合先輩を思い出させる。カズ先輩はとても平等な目を持った人なんだと思う。だからミチル先輩もカズ先輩の言うことにはちゃんと耳を傾けていて、気持ちがいいくらいの名コンビぶりを発揮する2人が、この学校の超有名人と呼ばれる理由もよく判った。
 その日から、あたしは放課後生徒会の文化祭準備を手伝いながら、この兄弟に探りを入れていった。文化祭が終わった翌週にはあたしの感覚も強くなっていくけれど、できればその前にどちらが宿主なのか知りたかったから。次の満月は文化祭から1週間後の日曜日。この日、2人がどういう行動を取るのか判らないけど、早めに宿主を特定できれば片方と外出の約束を取り付けることも容易になる。
 どちらか片方とより仲良くなるのは、宿主が特定できてからでないと危険だった。だけどあたしが転校してきた週の金曜日の昼休みにそれは起こった。あたしがこのクラスにきてから、移動教室などで前の廊下を通り過ぎる人たちがあたしの顔を覗いていくのは既に日常茶飯事で、このときに足を止めて窓越しに見ていたのは3年生の男子数人だった。
「あ、いたいた。たぶんあの子だ。……へえ、ほんとにすごい美少女だな。あの河合がひと目で恋に落ちるのも判るぜ」
 聞こえてきた声にはっと顔を上げると、次の瞬間にがらっとドアが開いて、カズ先輩が真っ赤な顔をして飛び込んできたんだ。
「あ、秋葉さん! ……今の声、聞こえた?」
 あたしが黙ったままうつむくようにこくっとうなずくと、カズ先輩は普段では考えられないくらい強引にあたしの手を引いて、そのまま教室を駆け出していった。背後にはクラスメイトを怒鳴りつけているミチル先輩を残して。