幻想の街10
 河合兄弟に近づきたいあたしにとっても生徒会の会計監査に任命されるのは都合がよかった。だから会長に尋ねられて承諾したんだけど、横地先輩たちはむしろ驚いたみたい。でもほかの役員たちも賛成してくれたから、会長はすぐにあたしを会計監査に任命する手続きを取ってくれたんだ。その日の生徒会は来週末に迫った文化祭準備で忙しかったから、あたしも雑用を手伝わせてもらって、放課後はいつも2人が帰っていた時間に解散するまでつきあっていた。
「 ―― 秋葉さん、家はどこかな?」
「あ、あの、坂堂駅の近くです。だから電車通学で」
「ずいぶん遠くから来てるんだね。でも駅なら通り道だからオレとミチが送っていくよ。最近このあたりもなにかと物騒だから」
「わあん、嬉しい! これから毎日サエコちゃんと一緒に帰れるんだー!」
 後輩の男子には容赦のない物言いをするミチル先輩は、まるでレズなんじゃないかと思うくらいあたしにはベタベタしてきた。対するカズ先輩は、最初こそ戸惑っていたものの、ある程度慣れてくると見守るような優しさであたしに接してくれる。まるでほんとに河合先輩といるみたいだった。弟だけあって声もよく似ていたから、気を抜くとついあの頃に戻ったように錯覚してしまいそうな気がした。
 そんな2人の関係は、最初あたしはミチル先輩の方が優位に立っているのかと思ったけれど、実はそうでもないことがだんだん判ってきた。ミチル先輩の言動に目に余るところがあれば、それをカズ先輩はきっちり抑えることができたんだ。
「それにしても、こんな半端な時期に急に転校なんて、珍しいわね。なにか理由があったの?」
「あ、はい。ちょっと家庭の事情で。……両親が調停中で、あたしは独り暮らしの兄のところへ転がり込んだんです。兄は違う高校なんですけど」
 かねてから決めておいた理由を話すと、それ以上何か言おうとするミチル先輩を制してカズ先輩が言った。
「うちの学校の転入試験は難しいんだよ。秋葉さんは優秀な結果だったって先生方も言ってたし、きっとお兄さんは自慢の妹と一緒に住めてすごく嬉しいだろうね。オレとしては少しだけうらやましく思えるよ」