幻想の街9
「キャー、かわいい! あんたたち、この子に手出ししたら一生許さないからね。この子、今日からあたしのものにするー!」
「そんなあ。オレだってお近づきになりたいですよ、こんな稀に見る美少女」
「ねえ、あなた名前は?」
「あ、秋葉サエコです」
「サエコちゃんね。あたし副会長の河合ミチル。ねえ、サエコちゃん。今日から生徒会の会計監査にならない?」
「ミチル先輩! 会長がいないのになんでそんな話進めてるんですか! だいたいオレらの生徒会って今月いっぱいで ―― 」
「横ちンだってお近づきになりたいんでしょ? それにこの子が会計監査になったら役員立候補者増えるわよぉ?」
「だから! オレの名前に「ン」をつけて呼ぶのやめてくださいよ。オレの名前は横地です。……じゃなくて、会長がいないのにそんなこと勝手に決めたらダメですよ。会計監査の任命権は会長にあるんですから」
「カズの権利はあたしの権利! それとも横地、あんた次の選挙で会長になったらサエコちゃんを指名しないつもりなの?」
「……そりゃ、オレだって願ってもないことですけど」
 あたしは微笑を浮かべながら周囲の会話を聞いていた。ミチル先輩はパワフルで、どうやら事実上この生徒会に君臨しているのは会長じゃなくてミチル先輩みたい。あたしに最初に話しかけてきた人は横地先輩で、来月からの次期生徒会長はこの人になるんだ。2人はそれからもあたしの意思なんかまるで無視して会話を続けていて、そのうちにやっと生徒会長の河合先輩がやってきた。
「 ―― おや? 君は今朝の……」
「秋葉サエコです。お言葉に甘えてさっそく来ちゃいました。この学校のこと、先輩にいろいろ教えていただきたくて」
 少し驚いたように立ち尽くしてあたしを見つめた生徒会長は、やっぱりどことなく兄の河合先輩に似た雰囲気があった。落ち着いていて、礼儀正しくて、優しい感じがする。兄よりも長身なこともあって実年齢よりも年上に見える。
「カズ、サエコちゃんを会計監査に任命しちゃってよ。あたしサエコちゃんのこと気に入っちゃったんだ。ねえ、いいでしょ?」
 あたしから離れたミチル先輩がそう言って慣れた仕草で会長の腕に絡みついたから、会長は少し困惑したように周囲を見回していた。