幻想の街8
 確かに違うところもある。正面のパソコンは新しい機種に変わっていたし、机の配置も少し違う。右側にあった棚が一つ増えていて、その分となりの掲示板が狭くなっていた。ホワイトボードはきっとどこか別の部屋へ移動してしまったんだろう。でも1番違っていたのは、その部屋で迎えてくれた人たちの顔と、視線だった。
 2人の男子生徒は半ば腰を上げかけたまま、数秒間あたしに見とれたように動かなかった。その顔にはいつものように無数の血管が見える。……そう、あたしの方が6年前とは違ってしまったんだ。吸血鬼としての可視波長と、人間が美しいと感じる容貌を持って。
「あの、河合先輩はいらっしゃいませんか?」
 あたしが声をかけたことで2人とも我に返ったみたい。ほとんど同時に顔を見合わせるようにしたあと、左側にいた人が言った。
「河合、って、どっちの河合だろう。会長ならしばらく来ないけど」
「……河合さん、2人いらっしゃるんですか?」
「ああ、会長と副会長。……あの、もしかして転校生かなにかですか? あの超有名な2人を知らないなんて ―― 」
「そんなことはあとでいいよ! とにかく座って! 今お茶、お茶入れますから!」
 もう1人に促されて椅子に座ると、その人はすぐに電気ポットでお茶を入れに行って、最初の人がいろいろ話しかけてくる。自分の事に関しては当たり障りのない答えを返しながら思っていたんだ。河合先輩のお父さんは中企業の社長さんで、先輩が生徒会長をしていた理由の1つはお父さんの教育方針だって聞いたことがある。だからあの2人も河合先輩と同じ理由で生徒会にいるのかもしれない、って。
 そうこうしているうちに続々と役員たちが集まり始めて、やがてほかの役員と連れ立って女子の河合先輩がやってきた。
「あれ? ……すごい美人さんじゃない。どちらさま?」
「ミチル先輩の知り合いじゃなかったんですか? 河合先輩に会いたいって言うからオレはてっきりミチル先輩の知り合いだと」
「判った! あなた、1年の転校生でしょ! 今朝カズの奴が白状したから、うちのクラスはその噂で持ちきりだったんだから。でもまさかここに現われるとはね。……もしかして、カズに会いに来たの?」
 元気なミチル先輩に圧倒されたあたしがうなずくだけで答えると、少しいたずらっぽく笑った先輩に力強く抱きしめられてしまった。