幻想の街7
 尾行していたときに見た2人の胸章の色と、あたしの記憶とに間違いがなければ、あの2人は今年高校3年生のはずだった。あたしはいつも通り1年生への編入だから、まずはどこかで接点を見つけないとならない。そんなことをぼんやりと考えながら、あたしは高校部長という肩書きを持った男の先生の話を聞いていた。たぶんあたしが在学中にもいた先生なのだろうけれど思い出すことはできなかった。
「 ―― では秋葉さん、詳しいことは担任の加藤先生と、副担任の坂本先生に聞いてください。先生方、よろしくお願いします」
 そのとき、タイミングを計ったように部長室のドアがノックされた。部長先生の返事に扉を開けたその人は、あたしがこの1週間ずっと尾行し続けていた双子のうち、男子の方の河合先輩だったんだ。あまりの偶然にあたしはしばし呆然と河合先輩を見つめてしまった。
「失礼します! 生徒会長の河合和弘です。遅くなって申し訳ありませんでした」
 そう言って一礼した河合先輩は、正面の部長先生を見たあと、軽く周囲を見回すようにしてあたしに視線を止めた。ほんの少し口を開いたままの表情でじっと見つめられるのは、最近のあたしがようやく慣れてきた相手の反応だった。それで多少なりとも冷静になれたみたい。あたしは微笑を浮かべたあと、先生の紹介を待たずに先輩に挨拶した。
「初めまして。本日この学園に転校を許可していただきました、1年1組の秋葉サエコです。よろしくお願いします」
「あ、はい、こちらこそよろしく。この学校のことで判らないことは何でも生徒会長のオレに訊いてください。とはいっても、生徒会長は今月いっぱいで終わりなんだけど ―― 」
 そうか、6年前に兄の河合先輩が生徒会長だったように、弟の河合先輩も生徒会長になっていたんだ。簡単な挨拶だけで先輩はすぐに部屋を出ていってしまったのだけど、あたしはこの偶然をおおいに利用することにしていた。
 クラスでの初日の挨拶も無難に済ませて、今月末に行われる文化祭の準備も「まだ挨拶しなければならないところがあるから」と言って抜け出して、放課後あたしはまっすぐに生徒会室に向かっていた。もちろん河合生徒会長に近づくためだった。だけど今は、懐かしい生徒会室へ行きたいという気持ちの方が強かったかもしれない。
 ノックをして、開いたドアの向こうに見えた生徒会室は、この6年間でほとんど変わっていないような気がした。