幻想の街4
 美幸はあの閑散とした駅の周辺で住む場所を探しているはずで、あたしは美幸と合流するために再びその駅へと向かっていた。電車に乗っている時間は20分ほどだから遠くはない。待ち合わせの喫茶店であたしは、奥の席に座って手を振る人を見て思わず足を止めてしまった。美幸は既に帽子をかぶってはいなかったのだけれど、黒かったはずの髪がまばゆいほどのド金髪に変わっていたんだ!
「一二三! こっち」
 声をかけられてようやく歩くことを思い出した。近づいていくと、着ている服もさっきとは違っていることに気が付いた。赤地に黒い模様が入ったタンクトップと鋲がちりばめられた破れかけのジーパン。露出した肩には小さなタトゥまで入ってる。
「どう? 見違えただろう? 似合う?」
 そう言って向けられた笑顔は、数時間前に駅で帽子をかぶったときと同じだった。……似合ってる、と思う。美幸は色白で彫りが深いから金髪に違和感がなかったし、露出の多い服は美幸の細身の身体を引き立てて、一種危険な色香まで漂わせている気がする。確かに今の美幸を見て、6年前の優等生とすぐに結びつけるのは難しいかもしれない。だけど、こんな田舎でこんな派手な格好をしていたら、否が応でも目立ってしまうだろう。
「似合ってるけど……似合ってない」
「ん? それはどういう意味?」
「美幸の容姿には似合ってるけど、田舎育ちのあたしには似合わない。ここの土地柄にも。そんな格好で出歩いたら悪目立ちしすぎるよ」
「……そう、か。一二三は気に入らない、か」
 美幸は微笑んでいたのだけれど、少しさびしそうに見えた。きっと美幸はあたしに協力しようと美幸なりにがんばってくれたんだ。でも、そんなさびしそうな笑顔を見せると、ますます外見のイメージからかけ離れていくんだけど。
「美幸って、英語はできるの?」
「あ、うん。ぜんぜんできなくはないよ。英検1級程度だから堪能ではないけど、日常会話くらいなら困らない」
「だったら、カラコン入れて、もっときちんとした服装で、外国人の振りをした方がいいと思う。それならそんなに違和感ないはずだよ」
 そう言ったあたしに美幸は嬉しそうな笑顔を向けたけれど、あたしは同じ笑顔にはなれなくて、心の中で大きな溜息をついていた。