桜色迷宮54
 翌日の最終日、みんなが合宿所の掃除をしている時間、あたしは一枝先輩と一緒に写真を取りに行って、そのあと朱音先輩も交えた3人で6号室にこもっていた。あらかじめクラスの番号を書いておいた袋に、みんなの写真を分けていたんだ。あたしは黙々と作業していたんだけど、一枝先輩はいつものようににぎやかだった。そして、いつもなら一枝先輩と一緒に騒いでいる朱音先輩は、今日はぼんやりしたままでぜんぜんさえがなかったんだ。
「わあ、これ、すごくよく撮れてるじゃない。確かここで一二三ちゃんが撮ったやつだよね」
「あ、はい、そうです。最初の日に役員同士で集まったときに」
「このミユキちゃん、いい表情してる。ほら見て、朱音ちゃんも」
 このとき朱音先輩は作業の手を止めていて、一枝先輩が呼ぶ声に気づかないみたいだった。こんな朱音先輩は初めて見る。昨日の夜、会長と抱き合っていた朱音先輩を見ていたあたしは、朱音先輩の不調がそのことと関係あるような気がした。
「朱音ちゃん! ……どうしたの? ボーッとして」
「……あ、ううん。なんでもない」
「なんでもないって顔じゃないわよ。ねえ、なにかあったの? それとも心配事?」
「……うん。でも……今ここで話せることじゃないから」
 そう言って目を伏せた朱音先輩は、こころなしか戸惑っているように見えた。あたしには、朱音先輩と会長との間に何があったのかは判らない。でも今ここでその話をしないでいてくれてよかったって、そう思う気持ちも確かにあったんだ。
 合宿所の大掃除が終わると昼食で、食後には閉校式が行われた。美幸先輩が各役員や係りのみんなをたたえたあと、生徒会長の役を河合会長に返還する。そうして再び河合会長が前に立って講評を述べたあとに、クラスの写真が配られて解散になる。その写真のおかげで3組の男子3人は大人気だったんだ。あたしはすぐに片付けに呼ばれてしまったから判らないのだけど、きっと美幸先輩が写ったほとんどの写真は女子に奪われてしまっただろう。
 片付けに参加しながら、ときどき視界に入る朱音先輩と会長のふだんと変わらない様子に、あたしはなんとなく胸が重くなっていた。