桜色迷宮53
「ねえ、一二三ちゃん。僕がどのくらいの期間、君を好きでいるか判る?」
 優しく髪をなで続けながら美幸先輩が訊いてくる。……先輩に告白されたのは夏休み前。その少し前に食堂でカレーをかけられて、そのときに先輩がすごくあわててたのは今でもはっきりと覚えてる。そういえば球技大会のときだ。帰り道で話したときの先輩の態度がそれまでと違って見えて、先輩に嫌われてしまったような気がしたのは。
「……3ヶ月くらい、ですか?」
「はずれ。最初に君を見たときから、僕は君しか見えてない。あの時僕は、一目惚れ、っていう感覚を初めて知ったよ」
 それじゃ、美幸先輩は小池先輩と一緒に生徒会室に来たときから、約4ヶ月間もずっとあたしを好きでいてくれたってことなの?
「あれが2月頃だったから、もう半年になるかな。僕は引越し先のアパートを捜しに来ていて、駅前で買い物をしているらしい一二三ちゃんを見つけた。そのあとはほとんどストーカーのようなことをして君の自宅と学校を調べて、予定していた転校先をやめて君と同じ学校の転入試験を受けたんだ。君が生徒会にいることを知って、小池と友達になってね。今思い返してもすごい行動力だったと思うよ」
 あたしは驚いて、顔を上げて先輩の顔をまじまじと見つめてしまった。……不思議な感覚だった。嬉しい気持ちと、少しだけがっかりした気持ちがあった。帰る方角が同じなのも偶然だと思ってたのに、それもきっと先輩が意図した結果だったんだ。
「一方的な片想いを半年も続けてきた。僕はずっと一二三ちゃんを見つめて、知れば知るほど好きになっていったんだ。だから、もしも一二三ちゃんの中に、僕に対する好意以上のものがあるのなら、まずは僕を見て欲しいと思う。……今、思うことはそれかな。現時点で明確な答えをもらっても、僕の不安は消えそうにないから」
 先輩が感じる不安がどこから来るのか、判るような気も、逆に判らないような気もした。たぶん先輩はあたしの会長に対する気持ちを心配しているんだろう。たとえそうだとして、その不安を消せるのが今のあたしの言葉じゃないことだけは理解していた。
「その手始めに、一二三ちゃんをデートに誘おうと思う。……一二三ちゃん、この合宿が終わったら、僕とデートしてくれませんか?」
「……はい」
 あたしが小さく、でもはっきりとそう答えると、先輩は今まであたしが見たことがないほど嬉しそうな表情で破顔した。