桜色迷宮46
 合宿2日目はクラス対抗のスポーツ大会がメインだった。今年はバレーボールで、1ゲームだけの総当たり戦をやって、優勝チームにはささやかながら賞品も出る。1ゲームだけとはいえ、体育館に設置した2面コートで合計15試合をこなす訳だから、これだけでも半日以上が費やされることになる。もちろんあたしは出場することができなかったけど、その代わりにカメラを持ってみんなの活躍を撮影することで精一杯の参加をしていた。
 ルールは一般的な6人制で、でもクラスの全員が参加できるようにサーブの位置で1人ずつ入れ替わっていく。あとこの合宿の特別ルールとして「男子が後衛の女子を狙ってスパイクを打ったら責任を取って嫁にもらう」というのが追加されているから、意外と男子が思うように活躍できないんだ。くじ引きで決まった3組の初戦の相手は1組で、ここは長身のバレー部員松田君を有する優勝候補。男女入り混じってなごやかに試合が進んでいたのだけど、美幸先輩が前衛に上がって松田君が後衛に来たとき、なぜかそれまでののんびりムードを覆すような美幸先輩の猛攻撃が始まっていたんだ。
「ち、ちょっと、山崎先輩。なんかさっきからオレばっかり狙い打ちしてませんか?」
「してるよ。だって女子には当てられないからね。君はマトが大きいから狙いやすいし、それにまがりなりにもバレー部なんだから、僕の球くらい受けられるだろ?」
「……それってまぎれもなく宣戦布告ですよね。いいですよ、受けてたちます」
 美幸先輩が、こんな風に自分から誰かを挑発するような態度を取るのは、少なくともあたしが見ていた中では初めてだった。次の球も3組のサーブで、女子のふんわりした天井サーブを受けた後衛の女子からダイレクトで返ってきたボールを、美幸先輩は再びダイレクトで松田君に叩き込んでいた。
「ったーッ! ……先輩、いったいどういうジャンプ力してるんすか。それにそのコントロールのよさは反則っすよ」
「そうかな。たまたまいいところに来たから打ち返しただけなんだけど。意外と取られないものだね」
「……オレ、山崎先輩に恨み買うようなこと、なにかやりました?」
 その松田君の問いに美幸先輩はただ微笑んだだけだったけど、ローテーションで先輩が前衛を退くまで、美幸先輩の松田君狙いは続いたんだ。