桜色迷宮42
「あ、ミユキちゃんお疲れさま。今日は大変だったね。さ、座って座って。こちら生徒会OBの先輩方」
「どうも、初めまして、山崎です。……一二三ちゃん、君は僕の隣だよ。こっちへきて」
 入ってきたときとはぜんぜん違う表情でにっこり笑った美幸先輩に、あたしは誘われるままに席を立ってしまった。美幸先輩が指し示した席に座ると、うしろから声がかかる。
「ちょっと待てよ、なんで小さい子連れてっちゃうんだよ。彼女はこっちの席だろ?」
「一二三ちゃんは僕の隣だって決まってるんですよ、OBの先輩方」
「どうして!」
「僕が生徒会長だからです。合宿中は生徒会長の権力が絶対なんですよね? 昔からそうだって聞いてますよ?」
 なんとなく、あたしのせいで場が険悪になりかかっていて、少しだけドキドキしてしまった。だけど美幸先輩がにっこり笑うと、先輩たちはそれ以上反論する気力をなくしてしまったみたい。顔を見合わせてぽりぽり頭をかいた。
「確かにそうだったな。オレも先輩に命令したいがためだけに生徒会長に立候補したよ。あの頃は今と違って役員でも立候補できたから」
「年に1度、下克上のチャンスだったんだよな。まあ、実際はそんなに先輩相手に命令できるヤツっていなかったんだけど、そういう気分を味わいたかったっちゅうか。おまえ、覚えてるか? オレらが高校2年の頃の会長だった ―― 」
 OBの先輩たちが思い出話を始めてしまったから、あたしはほっとして美幸先輩を振り仰いだ。先輩もまるで「大丈夫だよ」ってあたしを安心させるような笑顔で答えてくれる。ほかの役員たちはOBたちの話に耳を傾けていたんだけど、小池先輩だけが美幸先輩のそばにやってきて、耳に唇を寄せるようにして言った。
「やっぱおまえ、すげーよ。オレは一瞬血を見るかと思ったね。まさか一二三ちゃんを奪還できるとは思わなかったぜ」
「そんなにすごいの? あの先輩たち」
「少なくともオレには無理だ。先輩たちがどーのってより、中ボーの頃から身体に刷り込まれちまってるんだろうな。……やっぱ ―― 」