桜色迷宮40
 午後からは各クラスに分かれて、文化祭のオープニングに出す生徒会の出し物を決めた。クラス単位で6つ決めた出し物のうち、1番票が得られたものを本番でも演じるんだ。3組の教室は女子部屋の3号室で、クラス委員は3年の友成先輩だったから、進行を彼女に任せた美幸先輩は1クラスメイトとしてあたしの隣でくつろいでいる。裏方と生徒会長とで1番忙しい先輩が、休憩時間も含めて唯一息を抜くことができるのが、このクラス討議の時間だけだったんだ。
「 ―― それじゃ、3組の案はステージの出し物紹介ってことで。あんまり時間もないことだしちょっと練習してみましょうか」
 ふとうしろから肩をつつかれて、振り返ったら1年の女の子たちが美幸先輩を指差してたんだ。それで先輩を見てみたら、座ったまま居眠りしている姿が映って、あたしの唇からも思わず笑みが漏れる。そういえばあたし、いつも先輩と目が合うとすぐにそらしてしまって、先輩の顔をちゃんとしっかり見たことなんて数えるほどしかないんだ。こうして1番近くで見る先輩はやっぱり綺麗なんだってことに改めて気づいた。
「見とれてないで、早く写真写真」
 こっくりうなずいてすぐにカメラを構えてシャッターを押す。その音と、フラッシュが光ったことと、急に息を飲むように静かになった周りの気配で目覚めたんだろう。目を開けた先輩はあたしが持っているカメラにすぐに気が付いていた。
「……一二三ちゃん、もしかして撮った……?」
 ちょっとうつろな目をした先輩も初めて見るから、あたしは笑顔でうなずいてしまった。
「……やられた。ねえ、一二三ちゃん。その写真、生徒会長権限で没収していい? 君が現像してきた段階で」
「ダメですー! こんなベストショット、没収なんてひどいですぅ!」
「そうよ、ミユキちゃん。だいたいクラス討議中に眠ったのはミユキちゃんが悪いんだから。言ってみればこれは罰ってこと?」
「あ、それ、オレらにも配ってもらえるんだよね。……なあ、山崎の寝顔だぜ? クラスの女子に売ったらプレミア付くかもよ」
「あのなあ。元手がかかってないものを売っていい訳がないだろう? ……しょうがない。ほかの写真とのトレードなら許すよ」
 盛り上がる周りと反比例して溜息をついた先輩に、あたしは笑いを誘われたと同時に、ほんのちょっとの時間も気を抜くことさえ許されない先輩が少しだけかわいそうに思えてきた。