桜色迷宮38
 もしかしたら、この一連のやり取りはあらかじめ打ち合わせられていたのかもしれない。なぜなら美幸先輩は、今初めて会長に決まったにしては司会進行が手馴れていたから。その後のスケジュールの説明が終わると、今度はクラスごとに分かれて係りを決めた。
「 ―― 僕と一二三ちゃんはゴミ捨て係と記録係の責任者になってるから、そのほかの係りをみんなで分担してください」
 同じクラスになった女子はみんな、間近で見る美幸先輩をただ呆然と見つめていた。生徒会の中ではみんな慣れていて、先輩に対して普通に接しているから気にならないんだけど、美幸先輩はほんとに綺麗な人なんだ。あたしは今でもまだ信じられないでいる。こんなに綺麗で、会長が期待するくらい頭がよくて、バレー部の部長が助っ人を頼みたくなるくらい運動神経のいい人があたしに告白してくれたなんて。
 ひと通り係りを決めて、今度は係りごとにテーブルに分かれて説明を受ける。あたしが担当する記録係は使い捨てカメラを持ってクラスの写真を撮る人で、2日目のバレーボール対抗戦に参加できないあたしを気遣って会長が決めてくれたんだと思う。ここでも美幸先輩の写真を欲しがるほかのクラスの女子との間でひと悶着あったのだけど、すぐに河合会長が飛んできてその場を収めてくれた。そうしてようやく合宿部屋に荷物を置きに来たときには、あたしはほっとして大きな溜息をついてしまった。
 使い捨てカメラを2つ預かったあたしは、そのうちの1つを男子に渡して、まずは部屋で3組女子だけの写真を撮った。2号室は3組と4組の女子が合同で使うのだけど、話題はやっぱり美幸先輩一色だった。
「やっぱ私服だと雰囲気違うよねー。一二三ちゃん、そのカメラでミユキちゃんの写真、たくさん撮ってよ。もちろんあたしたちももらえるんでしょ?」
「はい、写真はぜんぶ10枚現像して、3組の全員に配られます。だから自分が写ってなくてももらえると思います」
 3年生の友成先輩に訊かれて答えていると、4組の2年生が話に入ってきた。
「でもそれって3組だけずるくないですか? あたしだって3組の写真欲しいのに。ねえ、役員のあなた、山崎君の写真だけでいいから内緒で焼き増ししてくれない? その分のお金はちゃんと払うからさ」
 ここでも食堂と同じ問題が勃発して、あたしは会長のセリフを思い出しながら必死で4組のみんなを説得しなければならなかった。