桜色迷宮39
 どうやら今年の合宿は去年までとは違うらしい。あたしがそう思うのに、初日の午前中の出来事だけで十分だった。食堂で昼食をとったあとは1時間ほど自由時間になっていて、その時間を利用してあたしたち裏方は宿泊では使わない予備の6号室に集合していた。
「なーんか、嬉しいんだけど厄介だわ、ミユキちゃん人気。あたしも散々言われたわよ。3組の写真回してくれって」
「一二三ちゃん、大丈夫だった? ちょっと疲れたんじゃない?」
 朱音先輩と一枝先輩に言われて、あたしはどちらとも取れそうな苦笑いを浮かべた。今回女子の部屋は3つで、1号室に一枝先輩、3号室に朱音先輩が配置されたから、2号室にはあたし1人しかいないんだ。あたしがもう少ししっかりしていれば、こんなに先輩たちに心配かけなくて済んだのにと思う。
「オレなんか女子にカメラ持たされちまったよ。ったく、こんなにイイ男が目の前にいるってのになぁ。美幸、仕方ねえからあとでポーズつけて2、3枚撮らせてくれよ」
「僕はかまわないけど。でも、どうして僕の写真なんかでそんなに熱くなるんだろう。たかが写真なのに」
「……美幸。オレは今一瞬おまえに殺意を覚えたぞ」
「一二三ちゃんや会長には迷惑をかけて、本当にすみません」
「コラァ! 無視してんじゃねえぞてめえ! それに謝るんならオレたち全員にだ!」
「まあまあ。ここでケンカしてても始まらないし。それにミユキちゃんが悪い訳じゃないんだから、小池も抑えて」
 会長のとりなしに怒りをおさめた小池先輩は、実はそんなに本気で怒ってた訳じゃなかったみたい。頬杖を付いてニヤニヤ思い出し笑いをしている。そのあと簡単な事務通達を終えて、残りの時間は合宿生徒会が使うからと、美幸先輩を除いた全員が部屋をあとにした。
 みんなの最後から部屋を出ようとしたあたしを、美幸先輩が呼び止めた。
「一二三ちゃん、なにかあったらすぐに僕に話して。どんな重要な用事を置いてでも駆けつけるから」
 この合宿が始まってから、まともに先輩と視線を合わせたのは初めてだった。小池先輩のカメラの前で見せたのとは違う美幸先輩の笑顔にドキッとする。照れ隠しにあたしは、思わず手に持っていたカメラを向けてシャッターを切ってしまった。