桜色迷宮30
「あの、……憧れてる人ならいます」
「誰だか聞いていい?」
 すぐには答えられなかった。
「答えなくてもいいんだよ。一二三ちゃんの嫌なことはしなくていいよ」
「あの、あたし……会長です」
「……生徒会長が好きなの?」
「違うんです! そうじゃなくて……会長は責任感があって、誰にでもやさしくて、嫌なこととかがあってもぜったい見せなくて、いつも自分のことよりみんなのことを考えてくれるから。……あたし、中学のころ言われたんです。その頃あたし、生徒会に誘われてもまだ迷ってて、そしたら会長が言ったんです。『僕の生徒会には一二三ちゃんが必要なんだよ』って。あたし、誰かに必要だって言われたの、生まれて初めてで。……だから、あたし会長に憧れてるんです。あたしは会長みたいにはなれないから、会長みたいにはなれないのに、会長の側にいてもいいって言ってくれて。ほんとだったらあたしみたいな子が口もきけないような、小池先輩や一枝先輩や美幸先輩や、こんなにいい人と一緒にいられて、こんなにすごい人達にかこまれていられるなんて、まるで信じられないことなんです。みんなあたしのこと妹みたいに可愛がってくれて、勉強教えてくれて、あたしほんとだったら、生徒会の人達なんて一生話も出来ないはずだったのに、ぜんぶ会長がくれたんです。だからあたし、会長が好きとかじゃなくて、憧れてるんです。あたしは会長みたいにはなれないですけど、会長が必要だって言ってくれたあたしを、少しでも会長のために役に立たせたいんです。あたしこれ以上望んだらばちがあたります。あたし ―― 」
「もういいよ、一二三ちゃん。ごめんね」
「美幸先輩は悪くないです。あやまらないで下さい」
「君はいい子だね。今日ここに来て本当に良かった。一二三ちゃん、ありがとう」
「あたし、そんなにいい子じゃないです。あ、あたし、美幸先輩にこんな事言っちゃって。すいませんでした。ごめんなさい。どうしよう」
 あたしは自分が言ってしまったとんでもないことに今更ながら気づいて、真っ赤になってうろたえていた。