桜色迷宮23
 それから夏休みまでの間も、あたしへのいじめは細々と続いた。朱音先輩に言われてから、あたしはなんとなく美幸先輩を意識してしまって、今までどんな風に会話してたのかぜんぜん思い出せなくなっていたんだ。先輩が笑いかけてくれたとき、あたしはどんな表情をしていたんだろう。それが判らなくて、先輩といるときにうつむく回数は増えていたと思う。
 終業式のその日、授業が終わるといつものように生徒会があった。通知表をもらってから直接生徒会室へ行くと、一枝先輩と朱音先輩がみんなの来るのを待っていた。
「おはよ、一二三ちゃん。通知表どうだった?」
 一枝先輩は自分の通知表をあたしに見せながら、ちょっとはしゃいでいるみたいだった。
「英語が思ったより良くて」
「あたしも。ミユキちゃんのおかげでね。ミユキちゃんは小池なんかより数段教えるのうまいね。試験の成績も良かったし、夏休みの宿題もミユキちゃんに教わることに決めたわあたし」
 そうして女子3人でたわいない話に花を咲かせていると、やがて会長が入ってきた。
「あれ? まだ3人?」
「会長は早いですね」
「オレはもう一仕事ある。熊野もきてないのか。いいや。今日は宿題チェックと夏休みの予定の話だけだから。みんなが来たらこれ配っておいて」
 会長は予定表のような紙を置いてまた出ていってしまった。3人で1枚ずつそれをとると、先輩たちが口々に話し始めた。
「わお、文化祭準備がぎっしり」
「合宿が8月3日からか。こっちの準備も大変そうだね。忙しくなりそう」
 そうこうしているうちに会長以外の全員が集まってくる。美幸先輩はあたしに視線を止めてわざわざ挨拶してくれたけど、あたし自身は小さく挨拶を返しただけで、先輩の目を見ることができなかった。