桜色迷宮16
 たいへんだった1週間が過ぎて、生徒総会も何とか無事に終了した。総会ではいつも副会長が司会をするのだけど、今年の司会は小池先輩で、場内爆笑の渦、ってほどでもないけどすごく楽しかった。総会では会計報告がメインだから、一般生徒たちの質問が監査の内容にまで及ぶこともある。こういう舞台があたしは苦手で、いつもは会計の一枝先輩に代わりにマイクの前に立ってもらっていたのだけど、今年は美幸先輩がよどみなく質問に答えてくれて、転校してきて間がない先輩を初めて見た人たちのため息を誘っていた。
 総会が終わると今度は中間試験があって、その結果発表と同じ時期に学校主催の球技大会が行われる。試験結果の発表ではあたしはいつも数学でしか名前が載らないのだけど、掲示板に貼り出された2年生の結果がすごかったんだ。小池先輩と美幸先輩がほとんど全教科で同率首位、つまり万点だった。この2人は何か賭けでもしていたのかもしれない。発表の日に生徒会室へ行くと、互いの健闘をたたえあうも、何かの教科で1つ万点を落とした小池先輩は大げさなアクションで悔しさを表現していた。
 その翌日からの球技大会では、あたしはクラスのみんなの応援をするくらいしかやることがなかった。まだ寒いため、体操着姿のみんなに混じって、あたしだけ制服を着ていたんだ。さすがに中学3年間同じスタイルを貫いていたあたしのことを、高校で同じクラスになった人たちはみんな理解してくれていた。学年入り混じったクラス対抗戦になるため、1年生は比較的早くに負けてしまって、あたしのクラスでは男女5種目のうち残ったのが男子サッカーと、午後が初戦の女子バレーボールだけになっていた。
「ねえ、今体育館で山崎先輩がバスケの試合やってるんだって」
「ほんと? それぜったい見たーい!」
「ね、行っちゃおうよ。ほら、一二三もおいで」
 あたしはクラスの友達に引っ張られて、バスケの試合が行われている体育館へと向かった。走れないあたしのことをみんな忘れてた訳じゃないのだけど、それでも気が急いてるみたいで、あたしはいつもよりも息が切れてしまったんだ。辿りついた体育館は既に黒山の人だかりで、試合が見えるポジションに移動するまでにはずいぶん人波をかき分けなければならなかった。そうしてようやく視界が開けたとき、目に飛び込んできたのは美幸先輩がちょうどシュートを入れている瞬間だった。
 とたんにものすごい黄色い悲鳴が巻き起こって、あっけにとられたと同時に、あたしは改めて美幸先輩のすごさを知ったんだ。