桜色迷宮14
 生徒会は4月から5月にかけてのこの時期、1年で1番忙しい季節になる。正確に言うと、会計監査の仕事がほかの時期に比べて格段に忙しいんだ。5月頭に開かれる生徒総会までの間に、あたしは昨年度1年間の監査を総括で出さなければならない。会計監査は毎月実施しているけど、それだけだとどうしてもごまかしがきいてしまうことがあるから。
 とはいっても、前年度の後記の会計は一枝先輩で、先輩が前期の分も暇を見てチェックしていてくれたから、間違いそのものはほとんどない。過去に会計をしていた先輩たちもみんなしっかりした人ばかりだったから、使途不明金をくすねるような人もいなかった。だから言ってみれば形式だけの監査と言えなくもないんだけど、これがあたしの仕事だったから、その週1週間はずっと生徒会室に缶詰状態で、美幸先輩と一緒に数字を見続けていたんだ。
 その最初の月曜日、河合会長はほかのみんなと一緒に生徒総会で配る資料の印刷に出かけてしまったから、あたしは美幸先輩と生徒会室で2人きりだった。
「 ―― 一二三ちゃん、僕は何をすればいいのかな」
「今資料を出します」
 あたしは棚を見上げて、手が届かないことに気づいてその下に椅子を引いてこようとした。そうしたら先輩があたしと棚の間に割り込んで言ったんだ。
「さあ、どれを取ればいいの?」
「あの、……右はじから仕切りまでぜんぶです」
「隣に僕がいるんだから、出来ないことは頼んでいいんだよ。幸いにして、一二三ちゃんよりも20センチ近く背が高いんだから」
 言いながら、先輩はひょいと手を伸ばして、数回に分けて難なく資料を取り出してしまった。あたしはなんとなく恥ずかしくなって、口ごもりながら言う。
「あたし、154です」
「僕はプラス18センチ。ちょうどいい」