桜色迷宮8
「さて、一二三ちゃんと一枝ちゃん、どっちが近いのかな」
「あたしの方が近いけど、でもあたしは国道のあたりまででいいよ。そこからは100メートルくらいだし、今の時間だとまだ明るいから。そうだ、うち、銭湯やってるの。みんなときどき来てくれて、売り上げ協力してくれてるのよ。そのうちミユキちゃんもお願いね」
「へぇ、そうなんだ。僕は銭湯好きだから近々いくよ。一枝ちゃんが番台にいないときに」
「あたし、番台にはほとんど上がらないわよ。たいていはお母さん。なにしろあたしに似て美人だから、お客さんの評判も良くて。不況でもあんまりお客さん減らなくて助かってるの。ね、一二三ちゃん」
「うん」
 そうこうしているうちに国道までやってきて、一枝先輩はそのまま手を振って帰っていってしまった。にぎやかな一枝先輩が去ってしまうと、あたしは山崎先輩と2人きりになって、とたんに沈黙が包む。国道を渡るとそこは田んぼ沿いの田舎道で、人通りもまったくなく先輩と2人きりで、あたしはどうしたらいいのかぜんぜん判らなくて緊張していた。
「こんな道をいつも通ってるの?」
 先輩が話しかけてくる。あたしはうつむいたまま、短く返事をした。
「そうです」
「ここからどれくらい?」
「……7、8分くらいだと思いますけど」
「いつもは会長が送ってくれてるの?」
「会長だったり、小池先輩だったり、熊野先輩だったり。みんな反対方向だから遠まわりになっちゃって。本当は1人で帰れるんですけど」
「これからは毎日僕が送ってあげるよ」
「……すいません」
 なんだかうまく会話が続けられなかった。きっと先輩も呆れてしまっただろう。こんなのがこれから毎日続くのかと思うと気が重かった。