桜色迷宮6
「 ―― 一二三ちゃんて……1年生なのに会計監査なんですか? 入学したばかりで」
「会計監査は生徒会長の一存で決められるからね。一二三ちゃんは天才なんだ。数字よませたら数学の先生なんか足もとにも及ばない。もちろんわが生徒会もパソコンにお世話になってるけどさ、数字の打ち間違いを見つけることは人間にしかできないから。ミユキちゃん、君は?」
「僕は転校生なんです。前はI県の方にいたんですが、親の都合でこっちに。もう毎年なんですよ。おかげで転校には慣れましたけど」
「クラブ活動は? なにか入るの?」
「特に考えてないです」
「それなんだよな。きいてよ会長。オレと山崎さ、実はクラブの勧誘から逃げてたの。こいつひ弱そうに見えて実はかなりスポーツ万能でさ。サッカー部やら野球部やら陸上部やらが寄って集ってこいつを追っかけるんだよ。山崎は優柔不断で断んねえから余計しつこくなって」
「それなら簡単だ。ねえミユキちゃん、生徒会に入る気はないかい? 今なら特別待遇で会計監査に任命するよ」
 一瞬、小池先輩と一枝先輩が息を飲む気配があった。山崎先輩はちょっと考えるようにしてから、やがて静かに答えた。
「ありがとうございます。本当に僕でいいんだったら、ぜひよろしくお願いします」
「当分は一二三ちゃんの補佐だから、難しいことはないよ。何か月かやってみて、オレ達の生徒会を気に入ってくれたら、その時には改めて役員に立候補してくれれば言うことないよ。ぜったいに気に入ってもらえると思う」
 その頃になって、あたしはようやく、今朝小池副会長が言っていた言葉を思い出したんだ。次期生徒会長になれそうな人を連れてくる、って。河合会長がこんなにあっさり山崎先輩を生徒会に受け入れたってことは、この人は会長のお眼鏡に適ったのかもしれない。
 そのあと戻ってきた熊野副会長たちに、河合会長はもう山崎先輩を会計監査のミユキちゃんとしか紹介しなくて、とうの山崎先輩は苦笑を浮かべながらも自分の呼び名を了承してしまったみたいだった。
 山崎先輩は落ち着いた声色で会長たちと談笑していて、隣に座ったあたしは予算の仕事が再開されるまで、とうとう顔を上げることも声を出すこともできなかった。