桜色迷宮5
「ややや、遅くなってすいません。ちょっと道が混んでて」
「時間は守れよ。イベント予算なんて、お祭り人間のお前がいないことには先へ進まないんだからな。それよりうしろにいるの、友達か?」
「おい、入ってこいよ」
 おどけながら現われた小池先輩のうしろに、1人の男子生徒が立っているのが見えた。あたしの位置からでは小池先輩よりも少し身長が低いというくらいしか判らない。でも、先輩に呼ばれて入ってきたその人を見たとき、あたしは驚いて固まってしまったんだ。
 なぜならその人は、今まであたしが見たこともないくらい、綺麗な顔をしていたから。
「こいつ、同じクラスの山崎美幸(やまざきよしゆき)。ミユキって書くんだ。うちのクラスのクラス委員だぜ」
「よろしく、ミユキちゃん」
「ミユキちゃんよろしくー」
「ま、ミユキちゃん楽にして。コーヒーでも入れようか」
「一二三ちゃんの隣にでも座るといいわ、ミユキちゃん」
 あたし、物怖じしない先輩たちを、これほどすごいと思ったことはなかったかもしれない。もともとすごい人たちなのは知ってたけど、こんなに簡単に、しかもこんなに綺麗な人を目の前にして、どうしてふだんどおりに振舞えるんだろう。あたしは何も言えずに呆然としていただけだったけど、山崎先輩の方も驚いたようだった。なぜなら会長と一枝先輩が示し合わせたようにミユキちゃんを連発していて、山崎先輩の呼び名はミユキちゃんに決まってしまったも同じだったから。
 書類を手早く片付けた一枝先輩は、山崎先輩を誘導してあたしの隣に座らせてしまった。あたしは顔を上げることができなくて硬直していたのだけど、会長が5人分のインスタントコーヒーを入れていて、いつの間にか休憩になってしまったみたいだった。
「まず紹介するよ。オレが生徒会長の河合信弘。隣が会計の一枝ちゃんで、君の隣にいるのが会計監査の一二三ちゃん。彼女はまだ1年生だよ。うちのアイドル。もちろんほかにもいるけど、今ちょっと出てるから」
 会長が変な紹介のしかたをするから、あたしはますます顔が上げられなくなってしまった。