桜色迷宮4
 あたしの放課後は、生徒会室へ行くことから始まる。クラス担任の先生はしゃべり方がゆっくりで、だからいつもあたしが行く頃には会長を除いた全員が集まっている。でも今日だけは小池副会長がいなかったんだ。そのことはたいして気に留めずに一枝先輩や朱音先輩と話していると、間もなく河合会長がやってきて今日の活動が始まった。
「 ―― 朝も言ったけど、今日は生徒総会に出す予算案の草稿を作るからね。それじゃ、まず書類のチェックから。熊野、予算請求書が出てないクラブある?」
「演劇部とラグビー部、それからテニス部女子、あと、写真部マン研……」
「昨日締め切りだって言っといたのにな。んーと、熊野と書記の2人、手分けしてもらってきて。まだ出来てないようだったらとりあえず金額と内訳だけでいいから。それから、去年度の決算の方は、会計の一枝ちゃん、できてる?」
「決算表の数字の打ち込みだけなら。コメントの原稿はまだ。でも、数字はちゃんと一二三ちゃんにチェック入れてもらってるから」
「よろしい。コメントの方はあとで単語だけ言うからつなげといて。あと……小池は遅いな」
「さっき職員室で見かけましたけど。何かあったんですかね」
「ま、今日予算やるのは知ってるはずだから、まちがいなく来るだろうけどな。いいや、先いこう。一枝ちゃんと一二三ちゃんは各クラブの予算請求書まとめてて。西村君と朱音ちゃんは請求書の取り立ておわったら決算表のレイアウトと印刷に入って。熊野とオレはイベント予算の調整をやる。小池が来たらオレと代わって、オレは演説原稿作るよ。質問は……ないようなので、それじゃ、始めてください」
 会長の掛け声で、熊野先輩たちは生徒会室をあとにした。あたしと一枝先輩は各クラブの予算請求書とにらめっこを始める。
「電算部の予算が突出してるね。まったく、1つのクラブに70万もの金額出せる訳ないじゃないの。20万に削減で決まり」
「でも電算部は新しいパソコンを増やしたいんでしょう? 部員が増えたから」
「だめよ、一二三ちゃん。甘い顔する訳にはいかないんですからね。それにしても、今の段階で100万以上オーバーしてるのに、まだ演劇部が残ってるのよね。会長は演劇部に立場弱いから困るな。熊野先輩が直談判してくれるといいんだけど」
 一枝先輩にはほんとに教えられることが多いと思う。先輩が心を鬼にして予算金額をカットしていると、間もなく小池先輩が姿を見せた。