桜色迷宮3
 あたしの1日は、こうした河合会長の宿題チェックから始まる。あたしは昨日四苦八苦してもできなかった英語の宿題を小池副会長と一枝先輩に見てもらっていて、そうこうしているうちにほかの役員も登校してきた。
「おはようございます」
「おはよう、西村君に朱音ちゃん。あ、熊野。お前古文の宿題やってきたか?」
 西村先輩と朱音先輩が書記の2年生で、熊野先輩は3年生の副会長。河合会長とは隣のクラスで、選択科目が一緒だから、いつも気軽な会話を交わしている。たぶん河合会長にとっては無二の親友なんだろうと思う。
「やってねーよ」
「じゃ、貸してやるから写しときな。西村君は? 今日は確か歴史の小テストだったよね。勉強してきた?」
 眼鏡で小柄な西村先輩は会長に、ぽっちゃり系でしっかり者の朱音先輩は小池副会長に勉強を教わりながら、いつもの通り生徒会室はにぎやかだった。中学の頃から生徒会を続けていたけれど、あたしは今のメンバーが1番居心地がいい。もちろん後輩もみんないい人たちばかりだったけど、でも河合会長がいるのといないのとではやっぱりぜんぜん違っていたから。
 中学のとき、クラスになじめなかったあたしの世界を変えてくれたのが、河合生徒会長だった。本当だったら口もきけなかったはずの一枝先輩や小池先輩、そのほかたくさんの人たちとの出会いを与えてくれて、あたしは少しだけ明るい自分を知ったと思う。まだまだ内気なのは直らなくて、病弱なあたしはみんなに迷惑をかけたりもしたけど、でもいつも笑顔で支えてくれたのがこの生徒会だった。少しでも会長やほかのみんなに近づきたくて、あたしは与えられた仕事を精一杯がんばっていたと思う。
 授業開始のチャイムが響く10分前、あたしたちの朝のおつとめは終わる。そのときふいに、小池副会長が言った。
「今日の放課後、できたらおもしろい奴をつれてくるよ。次期生徒会長の器かどうか、見てやってくれ」
 小池先輩は中学でも2年連続で副会長をやってたから、高校でも会長に立候補するつもりはないんだろうって、あたしは軽く聞き流した。
 だからこのとき先輩が言ったその人が、まさかあたしの人生を180度変えてしまうことになるなんて、まるで思ってもみなかったんだ。