白石の城23
 一二三が来るタイミングを見ながら早苗と少しリビングで話をして、そのあとベッドルームに移動した。そのまま種を回収してもよかったのだけど、祥吾の種が発動した理由を探るために今回は一二三にそばにいてもらうことになってたから、一二三が来るまでは僕1人で時間稼ぎをしなければならなかったんだ。薄明かりの中ベッドに横たえた早苗の顔にキスを落としながら雰囲気を作る。早苗は少し不満に思っていたのかもしれないけれど、その反面17歳の大河が自分をどう抱くのか、それを見極めようとしているようにも見えた。
「早苗はぜんぜん変わってないな。……すごく綺麗だ」
「嘘、そんなことないでしょ? あたしもう30超えてるんだから」
「変わってないよ。あれからオレの子供を産んでたなんて思えないくらい綺麗だ」
「やだぁ、からかわないでよ大河」
 そうしてたわいない会話を交わしながら時間を稼いでいると、やがてわずかな気配があって、一二三たちが到着したことが知れた。間もなくこの寝室に一二三とベスが入ってくるだろう。とそのとき、別室から子供の泣き声が聞こえた。おそらく次男が目を覚ましたんだ。
「早苗、子供が泣いてるよ? 放っておいていいのか?」
「大丈夫よ。同じ部屋に孝則がいるんだから。あの子は慣れてるからすぐに寝かしつけてくれるよ。それより早く」
 請われて再び早苗とキスを交わす。部屋のドアが開いたのはそれからほんの少し経ってからだった。子供の泣き声で動じなかった早苗も、これには驚いたのだろう。ハッとしてドアの前に立つ2人連れを見やると僕にしがみついてきた。
「キャッ……あ、あんたたちいったいどっから……!」
「大丈夫だよ早苗。オレの古くからの友人のベスと、オレの恋人の一二三だから。一二三、彼女が早苗だよ」
 一二三は少し怒ったような、きつい目つきをしてベッドの脇へと歩いてきた。満月期でなければ一二三のこんな表情を見ることはほとんどない。人間でいたときとはずいぶん顔つきが変わってしまったけれど、それでも僕はいつもその顔に以前の一二三の面影を見ていた。
「別に変化はないみたいだね、あたしと美幸が2人で接触しても」
 顔を覗き込んでいる一二三におびえたように、早苗は僕にしがみつく手に力を入れた。