白石の城21
「 ―― 結論から言うよ。早苗の次男は、れっきとした父親の血を引く子供だった。長男のY染色体との比較検査が一致したから、ほぼ100パーセント間違いないと思う。そして、血液検査でも吸血鬼が持っていると思われる成分はまったく発見できなかった。つまり、この次男は完全に人間としての特徴を備えているってことだ」
 ベスの地下研究室で、僕と一二三はノートパソコンに表示されたグラフを見せられながら、ベスに説明を受けていた。グラフの意味はさっぱり判らない。だけど、隣に表示されている人間と吸血鬼のグラフに照らし合わせると、次男のグラフが明らかに人間に近いことだけは判った。
「おそらくこの次男は、早苗の胎内にいるときに種の影響を受けていたのだろう。それは間違いないと思う。そうでなかったら吸血鬼の特徴を持った顔になるなんてことはありえないからね。ただ、種の影響が顔かたちにだけなのか、それとも身体の内部にまで及んでいるのか、それは今の段階では私にも判らないんだ。だから次の満月、種の回収に私も同行させてもらうよ」
「……それはかまわないけど。ベス、風水の研究はいいのかい? ここまでしてもらっただけでも僕たちは……」
「風水は逃げない。だけどこの子供については私も気になることがあるんだ。今、毛髪の方をアメリカの研究施設に送って調べてもらってるんだけど、私の仮説が正しいかどうか確認するためには直接子供に会う必要があるんだ。ただ、私の仮説の通りだったとすると、その子供は放っておいても大丈夫だよ。治療する必要も、ましてや殺す必要もまったくないと思う」
 そのベスの言葉を聞いて、一二三がほっとしたように息をついた。一二三にしても、もしもベスが次男を殺す決定を下した場合、容易に覆すことができないことを知っているのだろう。
「仮説って、どんな仮説なんだ?」
「それは訊かないでおいてほしいね。本当に私の説が正しいことを立証するためには、下手したら10年単位の時間が必要になるかもしれないから。しばらく風水は諦めてこちらの研究に没頭することにするよ」
 ベスとはけっこう長い付き合いになるけれど、ひとつの研究対象にこれほどのめり込むのは初めてだと言っていい。それだけこの次男の存在は興味深くて、ベスでさえも未だかつて出会ったことがないほどの謎に満ちているのだろう。