白石の城14
 なるほど、確かに血液を調べれば、次男が吸血鬼かどうかはすぐに判るだろう。種の宿主である母親の血を取るのも判る。だけど長男の血まで取る必要があるのか?
「どうして長男も取るんだ? この子は大河とは関係ないはずだろう?」
「DNAを調べたいと思って。本当は父親のサンプルが取れれば1番いいんだけど、単身赴任中じゃそれも無理だからね。両方とも男の子だから親子鑑定は兄弟のY染色体を比較検査すればほとんど間違いないと思うんだけど、念のため母子のDNA鑑定もやってみる。あと、ヘアブラシに残っている髪の毛ぜんぶと3人分の髪の毛も毛根つきで数本ずつもらってきて。運がよければ父親のDNAも手に入るから」
 そうか。もしも次男が父親のDNAとはまったく別の遺伝情報を持っていたら、この子が大河の子供である可能性が出てくる。逆に父親の子供であることが確認できれば、大河もほかの吸血鬼と同じく生殖機能を持っていない確率が高くなる。
「判った。明日にでももう1度行って取ってくる」
「頼むよ。それと、ついでだから話しておくね。……一二三のケースと同じように、大河の場合もこの生殖器官に異常があるんじゃないかと、私は考えている」
 ベスは再び、僕の胸に描かれた3つの袋の、1番小さな袋をペンの先でつついた。刺激を受けた僕の身体がひくっと震える。
「もしもこの先大河を保護することができたら、今の段階では外科手術を施すことしか私には思いつかない。つまりこの、生殖器官を丸ごと切除してしまうことだね。おそらくこの器官もすぐに再生されるだろう。そのとき正常な器官が再生されるか、それとも異常を持ったままか、確率は5分といったところか」
 ベスのその言葉には、僕より先に一二三が反応していた。
「それでもし、異常な器官が再生されたら、大河はどうなるの? もう治らないの?」
「治してあげたいけどね。もしもそうなったときには、それ以上私たちにできることはないよ。……この器官を切除してしまうしか」
 ベスがペンで指した部分を見て、一二三が息を飲んで絶句する。
 ペン先は、僕の心臓に1番近い部分にある、中くらいの大きさの器官を指し示していた。