白石の城12
 それは僕も初めて聞く話だった。あの時、僕は祥吾の背後から襲い掛かって、刺し殺したときには既に気絶したあとだった。あの瞬間に祥吾の顔を見ていたのは一二三だけだったんだ。
「確かにそれは気になるね。36月目なら種はまだ未熟なはずだから、なにか種を成熟させる要因があったとしか思えない。一二三、そのときの状況を詳しく話して」
 一二三は時々記憶を辿るように言葉を切りながら、それでもできるだけ正確にと思って状況を話したのだろう。そこには僕が知らなかった広田とのやり取りや、祥吾があの場所に現われたタイミングなど、細かな情報が織り交ぜられていた。
「 ―― なるほど。それじゃ、状況を整理しよう。これまでの満月で、37月目に満たない宿主に接触したことはある?」
「今回が初めてだと思う。前回のときに追いついて、祥吾が36月目だったから」
「いや、僕は昨日3人目の女性に接触しているよ。まだ35月目だ」
「とすると、可能性がある成熟の要因は4つだね。美幸よりも近い血を持つ一二三が近くにいたか、一二三と美幸の2人が同時に接触した。広田という成熟した宿主がそばにいた。あるいは、その祥吾という宿主の身体的または精神的なものが原因である、か」
 さすが、もともと研究者であるベスの分析は的確だ。僕は感心していたのだけど、やがてベスが言った言葉には驚きを隠せなかった。
「美幸、ちょっと上半身だけ裸になって」
「は? なんでだよ。どうして僕が……」
「一二三を裸にする訳にはいかないだろ? 由蔵のシワだらけの身体なんて誰も見たくないだろうし、美幸が適任なんだ。いいから脱いで」
 ベスの真剣な表情に押されて反論もできず言うとおり脱ぎ始めると、それを確認してベスは説明を続けた。
「祥吾の件は条件を整えて可能性を減らしていくしかない。さしあたり、この次の満月には2人で宿主のもとへ出向いてみるのがいいだろうね。それで変化が起こったら今度は一二三が1人で出向いてみればいい。とりあえずは女性の宿主のことだ。美幸、彼女の名前は?」
「太田早苗だ」
「早苗ね。……美幸、脱いだらここに立って。これから大切なことを説明するから」