白石の城8
「それもいずれ教えてもらえれば助かるけど。……僕が教えてほしいのは、僕たちの身体の治癒力についてだ。たとえば僕は身体に怪我を負ったとき、ほぼ完璧に再生する。怪我の痕跡すらも残らないほど。……その、女性の身体にも、そういうことは起こるのか?」
「なるほど、君が引っかかっているのはそういうことか」
 言葉はかなり濁したけれど、ベスには僕の言いたかったことが完璧に伝わったようだった。これが、僕が6年間も引きずっている、僕にとっては最大の問題だったんだ。額に触れて考えているベスを辛抱強く見守っていると、やがてベスは顔を上げて少し意地悪そうに笑った。
「なんだったら先に自分の身体で試してみるかい? なあに、私は優しいから心配は要らない。ヴァージンとの接し方も教えてあげられるし、一石二鳥だと思うけど?」
 言いながら僕の身体を抱き寄せて拘束したから、正直僕はあせってしまった。相手が人間ならそれが男でも逃げる手段はいくらでもある。だけどベスは吸血鬼で、細身ではあるけれど成長期の僕よりはずっと体格に恵まれているんだ。力で抑えられたらどうすることもできない。
「冗談はやめろよ。僕は男には興味がないし、ベスだってそうだろう?」
「興味くらいならあるよ。これだけ長く生きていればね、それなりに経験だってぜんぜんなくはないし。それに美幸くらい綺麗な少年を目の前にしたら、たとえノーマルな男だって同性に目覚めると思うけどね。どう? まじめな話、1度私と寝てみないか? 一二三を理解するためにもかなり有効な手段だと思うが?」
 と、僕なんかよりもずっと綺麗な顔をしたベスは言った。これだけ近くにベスの綺麗な顔があって、低く落ち着いた声で甘い言葉を聞かされたら、たとえその気はなくても流されそうになる。一瞬、失いかけた冷静さを、僕はあわててかき集めた。
「ベス、頼む。僕をからかうのはやめてくれ。僕は一二三以外と寝るつもりはない」
「人間の女性となら寝るのに?」
「彼女たちは通りすがりの食料だ。血をもらう代わりに身体を幸せにしてあげている。ただそれだけだよ」
「それも一二三を傷つけているひとつの要因だと思うね。もう、いいから寝てしまいなよ。その先のことは2人で考えていけばいい」
 それができるのならベスになんか相談したりしない。そう思ったそのとき、部屋の扉がノックされた。