白石の城6
「マギーも相変わらずだね。エネルギッシュで」
「ノンノン。この間研究が一段落してね、そのときに名前を変えたんだ。今後私のことはベスと呼んでくれたまえ」
 マギーのときも驚いたが、今度はベスか。外見はどう見ても男性にしか見えないのに名前はずいぶんと女性的だ。
「ベスね。できるだけ早く慣れるようにするよ。それにしても思いのほか早く来てくれた。本当に助かったよ」
「メールをもらったときたまたま中国にいたんだ。ラボの研究にあらかた目処が立ったから、今度は風水を研究しようと思ってね」
「風水?」
 これはまた思い切った転向だ。今までは確か遺伝子関係の研究をしていたはずだから。
「ほら、たとえばこのお化け屋敷。私たちには一種聖域のような雰囲気があるだろう? 私がこの土地に城を建てようと思ったのも、もともとの土地の雰囲気というか、やはり感じるものがあったからなんだ。そういう何かを科学的に分析できるんじゃないかと思ってね。……一二三、おとなしいけど疲れたんじゃないかい?」
 マギー改めベスは、一二三が所在なさ気に立ち尽くしていることに気がついたようだ。だが別に一二三がおとなしいんじゃない。ベスが彼女にしゃべる隙を与えていなかっただけだと思う。
「あ、あの、……ベス、今日はわざわざきてくれてありがとう。それと、いつもあたしたちのこと、生活費とか、気にかけてくれて」
「ああ、そんなこと。別に気にすることはないのに。私たちには教育資金も老後資金も不要だからね、ふつうに働いているだけでお金は無尽蔵に増えていくんだ。手元の資金の運用益だけでも一二三を100人は養えるよ。だから気にしないで、ね?」
 そう言いながらベスは、小柄な一二三の目線まで膝を折ってウインクしてみせる。まるっきり子供扱いだ。実際、ベスに比べたら僕でも子供のようなもので、一二三に至っては生まれたばかりの赤ん坊と同じような感覚なのだろう。
「さあて、もうすぐ夕食にするつもりだけど、先に荷物を置いてきた方がいいね。2人には2階の部屋のダブルベッドを整えておいた。由蔵が案内するから」
 一二三がほんの少しだけ反応を示したのが判った。