白石の城7
 断り文句を探している一二三が何か言うよりも早く僕が答える。
「申し訳ないが僕は1階の、以前使っていた部屋を使わせてもらうよ。その方が落ち着くから。でもせっかくの心遣いだから、2階の部屋は一二三が独りで使うといい。由蔵さん、悪いけど一二三をその部屋へ案内してもらえるかな?」
 一二三はほっとしたようで、ベスに一礼したあと由蔵のあとについて部屋を出て行った。案の定、僕たちの言動から真実を見抜いたベスが溜息をつく。
「まさかまだ寝ていないとはね。美幸、君と一二三とはいったい何年になるんだ?」
「6年。……あれからもう6年が経つよ」
「なにごともそうだけどね、美幸。そこに努力が伴わなければ現状維持というのは成り立たないんだよ。人は進歩することで初めて手にしたものを失わずに済むんだ。君が同じところにとどまっていては、いつか一二三は君から離れていくよ」
「判っている ―― 」
「判ってない! 君は一二三を軽く見すぎてるよ。ほんの少しでも一二三の気持ちを考えたことがあるのか? 一緒に暮らしているのに抱かないなんて、こんな残酷な仕打ちはないだろ」
 本当に判っている。一二三が不安に思っていることも、何か確かな絆のようなものを求めているのだということも。この6年ですれ違ってしまった心は、身体を重ねることで再び近づける部分もあるだろう。だけど、僕は怖いのだ。1度一二三を抱いてしまったら、再び今のような関係に戻ることはできないだろうから。
「ベス、もしも知っているのなら教えてほしい。……一二三は、あの子は、1度も経験がないんだ」
「……まあ、身体は15歳だと言っていたし、見ればその程度のことは判るけど。で? ヴァージンの抱き方でも教えてほしいのか? そのくらい、君の方がよく知っているだろう?」
 それは誤解だ。僕は少なくとも、初めてだと判っている相手をこちらから誘って寝たことはない。そうと告げられずにいてヴァージンにあたったことがまったくないとは言わないが。