白石の城5
 僕たちが屋敷と呼んでいるのは、実は西洋の城を日本に移築した建物で、本来ならば城あるいは館とでも呼ぶべき建造物だった。明治時代にわざわざ船を連ねて城を運んできたのは現在マギーと名乗る外国人で、国籍は不明、外見年齢は20代半ば、本当の年齢は僕にも想像がつかない。僕たちがこれまで何不自由なく暮らしてきたことにも、マギーは多大なる助力をしてくれていた。たとえば日々の生活費さえ、学生の僕たちにはどうすることもできなかったんだ。
 電車を乗り継いで僕たちがその城に辿りついたのは既に夕方で、森に囲まれた古い城は屋敷の呼び名の由来となったお化け屋敷然とした雰囲気に包まれていた。もちろん1番高い尖塔のあたりにはしっかりとコウモリが住み着いている。全体に石造りで、一見中世の時代に紛れ込んだようにも思えるのだけど、中の各部屋は改装が施されていて住み心地はいい。僕は最近では一二三が変化した6年前から大河のことがあった5年前までの1年足らずをこの城で過ごしていたけれど、それ以前も何か困ったことがあるとこの城に逃げ帰った覚えがある。
 だからこの城は、僕にとっては帰ることができる家のようなもので、唯一ほっとできる場所だった。
「 ―― おかえりなさい、美幸さん、一二三さん。ジョルジュさんは既においでになってますよ」
 玄関で迎えてくれたのは人間の由蔵さんだった。痩せていくぶん背中の曲がった老人の彼は、年齢的には僕とさほど変わらないのだろう。この屋敷の管理をしてくれている人で、僕たちのことも理解している。数年に1度名前を変えるマギーのことを、最初に覚えた名前だという理由でいつでもジョルジュと呼んでいた。
 由蔵は僕たちを食卓のテーブルがある部屋へと案内してくれた。窓辺に立って背を向けていたマギーは、僕たちの気配に気づいて振り返ると満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
「美幸! 一二三! 久しぶりだね。でも2人ともぜんぜん変わってなくて嬉しいよ!」
 そう言うと僕たちをまとめて両腕に抱きしめた。このテンションの高さも、過剰なアクションも、変わりようのない僕たちにあえて変わってないなどと平然と言えるセンスもマギーの特徴だ。その強引なハグから解放されるまで待って、僕はようやくマギーの顔を見上げる。
 以前は長く伸ばしていた銀髪は、長いところでも5センチはないだろうと思われるくらい短く刈り込んでいた。だけどそれ以外はマギーも変わっていない。青く澄んだ目は優しい表情をして僕たちを見下ろしている。