白石の城4
 種の宿主にはこの特徴は現われない。だからこの次男は、今まで僕たちが見てきたのとはまったく違う存在なのかもしれなかった。
「宿主の夫は現在単身赴任中で、宿主は実家の近くの一戸建てに親子3人で住んでいる。昨日僕は夜の8時ごろ訪ねていったんだけどね、僕のことを大河(たいが)だと思い込んで、わざわざ眠っている次男の顔を見せてくれたよ。その彼女に僕は、彼女が大河と肉体関係があったことをほのめかされた。……もしかしたら、その子は本当に大河の子供かもしれない」
 大河は約3年前、彼女に殺人の種を植え付けた。子供の年齢は2歳だから年齢的な不自然さはない。それに、宿主自身はその子供を大河の子供だと信じ込んでいる節があったのだ。
「そんなこと……! だって、あたしたちには生殖能力なんてないはずでしょう? もちろん大河にだって ―― 」
「そうは思うんだけどね。でも、大河は少し特殊なんだ。今までの僕たちの歴史の中でも、大河のような特殊な個体は記録がない。まあ、記録がないだけで、実際は200年近く前にも存在していたとマギーは言うんだけど。ともかく、それを確かめてからでなくては僕も動けなかったんだ。……殺してしまうのは駄目なんだろう?」
 僕の言葉に、ほんの少しからかうような声色が含まれていたのだろう。一二三は一瞬きっと睨みつけたあと、僕から目をそらした。
「……それで、あたしはどうすればいいの?」
「今のところはまだ何も。昨日のうちにマギーに連絡をしておいたから、今日にも屋敷にきてくれることになってる。彼の意見を聞いて、もしも種の回収だけでことが済むのなら、次男の方は君にお願いすることになると思うんだ。ただ顔に特徴があるというだけで、ごく普通に成長もしているようだから、次男が吸血鬼である確率は低いと思うしね」
 一二三は少しの間考え込んでいて、それきり僕が何も言わずに辛抱強く待っていると、やがて顔を上げて言った。
「美幸、あたしも一緒に行ってもいいかな」
「屋敷に? それはかまわないけど、一二三はそれでいいの? 君は以前あの屋敷が嫌いだって言ってたじゃない」
「マギーの話をあたしも聞きたいから。……大河のことは、あたし自身の問題だもん」
 もしかしたら一二三は、僕とマギーがその子供を殺す選択をする可能性を考えたのかもしれなかった。