幻の恋人24
「今日は諦めた。どうやら一二三にも協力してもらわなければならなくなりそうだから」
 美幸はそれ以上話す気はないようで、下着だけ身につけた身体を隣の布団に横たえた。うつぶせのまま、上目遣いであたしを見上げる。その視線は何かを探っているようにも、少しすねているようにも見えた。
「一二三、その。……広田のことを、好きだった?」
 そう、訊かれそうな気がしていたから、あたしはわずかに目を伏せて首を横に振った。なんとなく判った気がした。美幸が、いつもあたしにそう尋ねていた理由が。
 人間を食料としてしか見ていない美幸。そこまで割り切れないあたしは、美幸の行動に驚き、傷つく。でも、同じギャップはきっと美幸をも傷つけている。あたしが人間を守ろうとするたびに、美幸はあたしの気持ちを疑って傷つくんだ。
 あたしは美幸のことが好き。そして美幸も、きっとあたしのことを好きでいてくれる。満月期の今なら素直に言える気がした。美幸と、判りあえるような気がした。
「あたしは、広田のことを好きになったりしない。祥吾のことも、羽佐間君のことも。……あたしが好きなのは、美幸だから」
 うつぶせのままの美幸が、少し驚いたように身体を起こして、あたしを見つめる。そのあと自然な微笑みに変わったから、あたしも同じ微笑を返した。美幸の手があたしの手に重なる。
「よかった。このところずっと笑ってくれてなかったから、嫌われてしまったのかと思ってたよ。……僕も、一二三のことが好きだよ。出会ったときから、変わらずに好きだ」
 6年前に初めて告白してくれた美幸がいた。たとえあたしがどんなに変わっても、ずっと変わらずに好きだと言ってくれた。あたしがあたしだから好きなんだ、って。今、あたしと美幸とは心が通じた。そう思っていいの?
 あの時あたしが信じた美幸が、美幸の真実なんだ、って。あるがままのあたしを受け入れて、永遠にそばにいてくれるって。