幻の恋人14
 あたしは今、サエとして祥吾のために熱弁を振るっていた。幻のサエなんかのために祥吾に落ち込んでほしくなかったから。でもあたしは、しゃべりながら思っていたんだ。未来がある祥吾のことを本当に羨ましく思っているのはサエじゃなくてあたし自身なんだ、って。
 祥吾はこの先、本当に夢をかなえるかもしれない。逆に夢破れて歌を諦めてしまうのかもしれない。でも、たとえどんな運命が待っているとしても、祥吾の歩く道は必ず未来につながっている。あたしの未来は1つしかない。「思い出の中の転校生」というただそれだけ。
 成長しないあたしは、同じところに長くいられない。何年も付き合えるような親友は作れない。出会った人たちの心の中に、「そういえば高1のときそういう転校生いたよな」って、判で押したような印象を残すだけなんだ。美幸がずっとそうだったように。
「なあ、サエ、オレたちめちゃくちゃ注目浴びてるぜ」
 祥吾が皮肉な表情で笑ったのが判った。言われて周囲を見回して、すごく恥ずかしくなる。
「……あ、あたしのせい?」
「半分以上オレのせいだろ。なんたって未来の超有名人だからな。 ―― それ飲んだら出るか」
 あたしは残っていたジュースをあわてて飲み干して、笑いながら立ち上がった祥吾のあとについてその喫茶店を出た。
 祥吾はいつも、あたしをどこかへ連れて行こうとか、一緒に何かをしようとか、そういう目的はないみたい。駅前をぶらぶらと歩きながらウィンドショッピングをしたり、バーガーショップで話したり、時にはゲームセンターやパチンコ屋に入ってあたしのことを忘れかけたり。今日も祥吾はてきとうにぶらぶら歩きながら、思い出したように話し始めていた。
「けどサエなら今からでも十分アイドルでいけるんじゃねえ? おまえ、すげー綺麗だし」
「そんなことないよ。それに、今のあたしはアイドルになりたいなんて思ってないもん。見かけほど楽しくなさそうな気がしてるし。……あ、祥吾が好きそうなの発見!」
 半分ごまかすように、あたしは通りの店先のワゴンに乗ったアクセサリーの中から、毒々しい骸骨の形をした指輪をさして言った。近づいてくる祥吾の指には同じような指輪がいくつもはめられている。
「今買うならそれよりこっちだな。サエ、ちょっとはめてみ?」