幻の恋人11
 あたしの生ジュースと、祥吾のアイスコーヒーを注文したあと、祥吾はあたしの顔を見つめながら言った。
「なんかさ、サエって化粧してないとほんっと幼いよな。まるで中ボーみてー。マジで18っての嘘じゃねえの?」
 あたしはちょっとふくれたように食ってかかる。
「ほんとだよー。嘘だと思うんなら高3で習う数学の公式暗唱してみせようか?」
「ハハハ、それ、証明になんねえよ。だってオレの方が判んねえもん」
「祥吾って数学苦手なんだー」
「ていうか、オレ高校卒業してねえし。中退して17のときに歌い始めたんだよな ―― 」
 そのとき言葉を切った祥吾の顔から笑顔が消えたのが判った。視線をはずして、何かを思い出しているような仕草をする。
「 ―― オレさ、前におまえと会ったこと、ねえ?」
 たぶん大河のことだ。うかつな返事をするとボロが出るのは判ってたから、あたしはあいまいな感じで答えた。
「どうしてそう思うの?」
「いや、前からなんとなく思ってたんだ。初めて見たときから、どこかで会ったことあるような気がする、って。今、それがどこだか思い出した。……まだ子供だったし、てっきり野郎だと思い込んでたから、確かめもしなかった。風呂と着替え貸して。……あれって、おまえだよな?」
「……さあ、どうかな。よく覚えてない」
「覚えてない訳ねえだろ! あんなところでずっと雨に打たれてて、オレが拾ってやらなかったら死んでたぞおまえ! なあ、いったいなんでそんなことになってたんだ? ぜったい普通じゃなかったぞあれは!」
 祥吾が大河と会ったときの状況がだいぶ詳しく飲み込めてきた。ここから先は賭けのようなものだ。
「……今とおんなじ。受験勉強で疲れてて、何もかも嫌になってたの。ほら、うちの高校、ランクめちゃくちゃ高いから」
 祥吾が目を見開いてあたしをまじまじと見つめていた。