幻の恋人7
 2人目の宿主のことを、美幸はミュージシャンだと言った。どうやらロックバンドのヴォーカルをしているらしい。週に2回、駅近くのライブハウスで歌っていて、そこそこ固定客もついている。でも傍目にはフリーターとニートの中間くらいにしか思えなかった。
 この人は今月で36月目。もしも今回失敗しても、次の満月で種が活動する前に取り出してしまえば被害者は出ない。だけどあたしはできるだけ早く片付けてしまいたかった。大河は毎月宿主を生み出しているんだから。月に1人ずつ処理していたら、一生大河には追いつけないんだ。
 数日間だけ尾行してライフサイクルを把握したあと、あたしはそのロックバンドが出る日を狙ってライブハウスへ行った。少し大人っぽく見えるように化粧して、奥のテーブル席に座る。祥吾という名前のヴォーカルの声はそれなりにいいと思った。それ以外にも褒められるところがあればもっとよかったのだけど。
 同じテーブルに座って、祥吾の歌の歌詞に出てくるカクテルを注文し続けたあたしに、祥吾は3回目で声をかけてきた。
「もしかしていつもオレのこと見てない?」
 ステージが終わって、高校生くらいの若い子達が帰ったあと、いくぶんおとなしい服装に着替えた祥吾が向かいの席に座る。あたしの返事を待たずに自分の水割りを注文した。20歳だと聞いていたけれど、もっと前から飲んでいそうな雰囲気だ。
「声がいいと思ったの。それに、少しだけ目つきが好みかな、って」
「……君、いくつ? もしかして20歳前?」
 あたしの声と仕草で年下だと感じたのだろう。美幸なら、声色を自在に変えて社会人に見えるくらいにはやってのけるけど、未熟なあたしにはまだそんな芸当は無理だった。もともとの身体が15歳だから、よほどうまく演技しないことには成人女性には見えないんだ。
「18。だけど黙ってて。バレると追い出されちゃうから」
「いいけど……よく入れたね。だってここ、入口で証明書って言われるだろ?」
「お姉ちゃんに免許証借りてきたから。けっこうバレないよ。……祥吾に会いたかったんだもん」
 方針転換。甘えるような流し目で見て、反応をうかがう。長い足を組み替えた祥吾にあたしはいい感触を持った。