満月のルビー30
 病院のベッドで目を覚ましたあと、入れ替わり立ち代わり入ってきた大人たちに訳も判らないまま質問攻めにされた。いったいなぜあんなところで倒れていたのか、結城に何をされたのか、結城とはどんな関係だったのか。どんな関係もなにも、結城とは担任教師と生徒という関係以外のなにものでもない。質問の意味すら理解できなかったから、とうぜん満足に答えることはできなかった。
 彼らの話をつなぎ合わせると、どうやらオレは学校の電算室で結城と一緒に倒れていて、朝出勤してきた教師に発見されたらしい。2人とも重度の貧血状態で、オレが目覚めたのは発見から3日もしてからのことだ。その時のことは、誰にどんな質問をされてもまったく思い出すことができなかった。結城とは以前から肉体関係があったのか、なんて質問されたところで、オレには「ふざけんな」以外の答えなどできなかったんだ。
 ただ、発見当日のオレの首筋には、結城がつけたらしいキスマークのようなものが左右1つずつついていて、オレが結城に押し倒されたのは間違いないらしい。それ以上の陵辱の跡はなかったらしいけど。
「 ―― 山崎さん、転校しちまったよ。やっぱ殺人犯の疑いがかかった教師が担任のクラスなんか嫌だよな」
 ようやく面会が許されて、見舞いに来た蓬田がボソッと言った。山崎という名前にはまったく聞き覚えがなくて、そういえば転校生がきてたよな、なんてぼんやり思ったりして。
 オレが気の抜けた声で「そうなんだ」と相槌を打つと、蓬田は言いづらそうに目を伏せて言った。
「……なあ、お前、その。……結城とその、付き合ってたのか?」
 ああ、おまえもか。すでに答えるのすら面倒になってたのだけど、変な答え方をして誤解されたくもなかったから、何とか気力を取り戻して言った。
「付き合ってる訳ないだろ。なんで男のオレが男の結城と付き合わなきゃならねえんだよ。オレは別に電算部でもねえし、結城と個人的に話したことなんて1度もないぜ。……ったく、どいつもこいつも」
「それじゃあの夜が初めてだったんだな? おまえ、最後までいっちまったのか? 結城とヤッたのか?」
「やるわけねえだろ! 脳ミソと目ン玉腐ってんのかてめえ!」