満月のルビー28
 そうして上半身を起こしているだけでも山崎先輩はつらそうで、気づいた山崎が背中を支えていた。
「ありがとう、もう少し休ませてくれ。そうすれば何とか動けるようになるから。羽佐間君も少し待ってて」
「ああ、オレは大丈夫ですから。始発で帰って学校へ行けば親は何も言わないし」
「信頼されてるんだ」
「というより諦められてるっていうか。それなら先輩の方が信頼されてますよ。高校生なのに兄妹で2人暮らしを許してもらえるなんて」
「それ、嘘だよ。僕はもともと両親がいなくてね。ヒフミも両親とは連絡が取れる状態じゃないから」
「……え? それって、兄妹じゃないってことですか?」
 だってこんなによく似て……。2人の顔をまじまじと見比べて、オレはハッとした。この2人、そっくりなんだ。表情とか醸し出す雰囲気とかそういうものが。それなのに、顔のパーツそのものをひとつひとつ比べても、どこが似ているとはっきり言える部分がない。
「よく見るとそんなに似てないだろ? でも兄妹だって言うとけっこう信じてもらえてね。いろいろ便利だからそういうことにしてるんだ」
「……同棲、してるんですか……?」
「まあ、そういうことになるのかな。 ―― がっかりした?」
 がっかり、したんだろう。この1ヶ月、山崎のことでショックを受けることは多かったけど、たぶんこれが1番の衝撃だった。オレは別に内気な訳じゃなかったけど、親しく話ができるような女の子は今までいなかった。山崎はオレが生まれて初めて親しくなりたいと思った女の子で。
 これを失恋と言えるのなら、オレは失恋して初めて好きになってたことに気づいたことになる。自分が鈍いタイプだってのはよく蓬田に言われて自覚してたけど。
「僕やヒフミには過去があってね。羽佐間君がさっき見たような種を取り出す力や、人並み外れた運動能力なんかを得たことで、失ったものも多い。あの種を蒔いているあの子も僕たちと同じものだ。だから早く見つけて、できれば支えてあげたい」
 そう言った山崎先輩の目には、あのときの山崎と同じ決意のようなものがあった。